日本大百科全書(ニッポニカ) 「モットラム石」の意味・わかりやすい解説
モットラム石
もっとらむせき
mottramite
銅(Cu)および鉛(Pb)の含水バナジン酸塩。亜鉛置換体デクロワゾー石などとともにデクロワゾー石系を構成する。自形は直方体、斜方複錐(ふくすい)、c軸方向に伸びた柱状など。深熱水性鉱脈型鉛鉱床の酸化帯に産する。バナジンの起源は明らかでないことが多いが、鉛の二次鉱物として取り扱われている。日本では山口県美祢(みね)郡美東(みとう)町(現、美祢市美東町)宗国(むねぐに)鉱山(閉山)、同山口市日高鉱山(閉山)などから報告されている。
共存鉱物はミメット鉱、黄鉛鉱、白鉛鉱、ダフト鉱duftite(化学式PbCu[OH|AsO4])など。色の変化が大きいため観察のみによる同定は困難である。帯灰草緑、オリーブ緑、黄緑、黒褐、ほとんど黒色などであるが、皮膜では褐色系統のものが多い。いずれの場合も中間色ばかりである。自形は密集して他の共存鉱物の種類が少ないと斜方複錐が卓越し、とがった結晶の集合となり、色が濃くなる。単独結晶の場合は直方体や柱状になりやすい。真っ黒の場合でも条痕(じょうこん)は帯褐黄緑の中間色。ただし日本では真っ黒いものの出現の報告はない。命名はイギリスの原産地モットラムMottram、セント・アンドリューSt. Andrewに由来する。ただしこの地名は鉱石置場の所在地で、真の産地はシュロップシャーShropshireのピム・ヒルPim Hill鉱山となっている。
[加藤 昭 2018年10月19日]