モリル法(読み)モリルほう(その他表記)Morrill Act

改訂新版 世界大百科事典 「モリル法」の意味・わかりやすい解説

モリル法 (モリルほう)
Morrill Act

アメリカ合衆国において,農業大学設立のため各州に公有地を与えた法律。1862年,ジャスティン・モリル提唱により成立したので,この名で呼ばれる。この法の下で,各州は連邦議会上下両院議員1人当り3万エーカー(約1万2000ha)の公有地,または公有地証券を与えられ,その売却収入を資金に,農業および技術を教える大学を設立した。これらの大学は〈A and M(agricultural and mechanicalの略)カレッジ〉あるいは〈ランド・グラント・カレッジland-grant college〉と呼ばれ,その多くはやがて州立大学へ成長していった。また,1890年には,同じモリルの提唱によって,これらの大学に年間2万5000ドルの連邦資金が与えられることになった。モリル法は,アメリカ各地とくに西部諸州に,農民に役だつ研究・教育機関としての大学を生み出した意義をもつが,同時に連邦政府による教育への援助を開始させた点でも重要である。
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大学事典 「モリル法」の解説

モリル法
モリルほう

アメリカ合衆国東部ヴァーモント州選出の下院議員ジャスティン・S. モリル,J.S.(Justin S. Morrill)が,初回は1858年に上程し,連邦議会を2度通過したのち,62年リンカーン大統領に批准された連邦政府による州の大学設立と維持への援助を規定した法律。本法の援助提案に応じる州は,連邦議会議員1名あたり3万エーカーの土地ないし証券を付与され,売却金を基金として農工文理軍事の関連分野を教授する大学を最低1校設立・維持する義務を負った。大学史上では,神・法・医の旧専門職者の養成を前提とした既存の大学を,人口の多数を占める生産者諸階級向けに根本から再編成しようとした点が注目される。他方,アメリカ史上では,南北戦争という国家の分裂の危機の中,大学の設立・維持への連邦介入を通して諸州の結束を図る一度だけの試みであった。本法は新大学の目的を「生産者諸階級が実生活においてさまざまな生業や専門職を遂行するに必要な,リベラルかつ実用的な教育を奨励する」と規定し,そうした大学での革新,新分野の実験研究の成果を公刊し,すべての該当大学間で交換し続けることを義務づけた。
著者: 立川明

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「モリル法」の意味・わかりやすい解説

モリル法
もりるほう
Morrill Act

アメリカで南北戦争中に制定された、農科大学設立を目的とした公有地払下げの法律。イリノイ州の教育・農業改革家ジョナサン・B・ターナーが長年提唱してきた計画を、バーモント州選出下院議員モリルJustin Smith Morrill(1810―98)が法案として議会に上程し、1862年、大統領リンカーンの署名を得て成立した。この法律では、連邦側(北部)の各州は、連邦議会議員1名につき3万エーカー(1万2140ヘクタール)の公有地の交付を受け、農科大学の新設と強化にあたることが定められている。これによって設置、強化された大学(土地交付大学land grant college)は、イリノイ大学カリフォルニア大学マサチューセッツ大学、アイオワ州立大学など69大学に上る。

[平野 孝]

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世界大百科事典(旧版)内のモリル法の言及

【アメリカ合衆国】より

…しかしこの奴隷制度自体は,社会的公正や道徳上の問題はともかくとして,少なくとも工業文明とはあいいれず,結局,南北戦争(1861‐65)を引き起こす結果となった。すでに経済発展の加速は始まっていたが,戦争中には国立銀行法,関税法,自営農地法(ホームステッド法),土地交付大学法(モリル法)等が制定され,戦後の〈再建〉期に国内市場の統一が達成されるなどの条件が整ったため,終戦後には工業が本格的に経済発展をリードするようになった。著しい技術革新過程を反映したこの19世紀後半は,一口にいって蒸気機関と鉄の時代,あるいは鉄道建設の時代であったといえる。…

【工学】より

…しかし,これらの学校は広大な国土を有する新興アメリカの産業発展の担い手を養成するには十分なものとはとてもいえなかった。そこで登場したのが,62年に公布されたモリル法であった。これは,〈農業や工学mechanical artsに関連する学問分野〉のための教育機関を設立し振興するために,国有地を与えるという趣旨の法案であった。…

※「モリル法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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