改訂新版 世界大百科事典 「ヤチネズミ」の意味・わかりやすい解説
ヤチネズミ (谷地鼠)
red-backed vole
齧歯(げつし)目ネズミ科ヤチネズミ属Clethrionomysの総称であるが,別属のニイガタヤチネズミ属Aschizomysのものをも含めることがある。狭義のヤチネズミはハタネズミによく似るが尾が長く,背が赤い。アジア,ヨーロッパ,北アメリカの中・北部に広く分布し,8種以上に分けられている。体長7~11.5cm,尾長2.5~6cm,体重15~40g。体は全体に丸く,ハタネズミに比べ目や耳がやや大きく,成獣になると臼歯(きゆうし)に根ができ成長が止まる。毛色は背面が鮮やかな栗色がかった赤色で,頭頂部から尾の付け根まで幅広い縦帯を形成。体側は灰褐色,腹面は淡黄色から黄白色まで変化する。森林,原野,岩地,ツンドラにすみ,植物の茎や根,木の皮,地衣類や蘚苔類,少量の昆虫を食べる。冬の終りから秋おそくまで繁殖し,妊娠期間17~20日,1産1~11子を生む。寿命は飼育下で4年11ヵ月の記録がある。
日本には北海道に5種が分布する。もっとも広く生息しカラマツの植林地などに大害を及ぼすエゾヤチネズミC.rufocanus bedfordiae,おもに高山の森林にすむ小型で美しいミカドネズミC.rutilus mikado,高山のお花畑や谷あいの草地などにミヤマムクゲネズミC.montanus,利尻・礼文島には草原にシコタンヤチネズミC.sikotanensis,その森林には世界でもっとも大きなヤチネズミであるリシリムクゲネズミ(ムクゲヤチネズミ)C.rexがみられる。なお,上記のうち2種にムクゲネズミの名があるが,これはヤチネズミ属特有の体背面の赤色の縦帯をほとんど欠き,体毛がむく毛状のため,一見して他と区別可能なためである。
広義のヤチネズミには以上のほか,別属で,東北地方のトウホクヤチネズミAschizomys(=Eothenomys)andersoni,本州中部の高山にのみすむニイガタヤチネズミA.niigatae,紀伊半島のワカヤマヤチネズミA.imaizumii,朝鮮半島のコウライヤチネズミ(コウライミヤマネズミ)A.regulusなどが含まれるが,それはこれらが長い間,ヤチネズミ属に属すると誤認されていたためである。臼歯には終生根ができず,背に赤色の縦帯がない。
執筆者:今泉 忠明+今泉 吉典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報