日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨウジウオ」の意味・わかりやすい解説
ヨウジウオ
ようじうお / 楊枝魚
pipefish
硬骨魚綱トゲウオ目ヨウジウオ科ヨウジウオ亜科Syngnathinaeに属する魚類の総称、またはそのなかの1種。世界各地の暖海に分布するが、若干の種類は寒帯にも生息する。90メートル以浅の沿岸や汽水にすむが、淡水にもいることがある。世界で230種余りが知られ、そのうち日本からはおよそ42種が記録されている。体は著しく延長して細長く、完全に骨質板で覆われる。尾部はまっすぐに伸びて曲がらないこと、および尾びれがあるのがタツノオトシゴ類との大きな違いである。吻(ふん)は管状で、その先端に小さな口があり、スポイトのように急に海水とともにプランクトンを吸い込んで食べる。春から夏にかけて産卵する。雄の胴の腹面または尾部の下面に受精した卵を保護する特別な装置がある。腹面の両側に低い皮褶(ひしゅう)があり、これに挟まれて多数の卵が露出したまま一層に付着したもの、左右の皮褶が合一して完全な育児嚢(のう)を形成し、その中に卵が入れられているものなど、種によってさまざまな形状がある。育児嚢の中の卵は、その組織からある程度の栄養を取り込む。
和名ヨウジウオSyngnathus schlegeliは、北海道~九州の日本各地、朝鮮半島、南シナ海などの沿岸の藻場や河川の汽水域に生息する。背びれや育児嚢が尾部にあり、育児嚢の中に卵を完全に包み込むこと、背びれ条数が多い(35本以上)ことなどが特徴。全長30センチメートル余りになる。受精した卵は楕円(だえん)形で長径1.2ミリメートル、短径1ミリメートルで、育児嚢と胎盤状組織で密着する。育児嚢の中で孵化(ふか)した仔魚(しぎょ)は全長7ミリメートルであり、1週間前後で5、6月ごろに全長10ミリメートルの稚魚となって産み出される。
[落合 明・尼岡邦夫]