日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨロイアジ」の意味・わかりやすい解説
ヨロイアジ
よろいあじ / 鎧鰺
longfin trevally
[学] Atropus armatus
硬骨魚綱スズキ目アジ科アジ亜科に属する海水魚。駿河(するが)湾以南、下関(しものせき)、長崎県、沖縄本島、宮古(みやこ)列島など南日本の沿岸、台湾、トンキン湾、アンダマン海などインド洋、太平洋の熱帯・亜熱帯海域に広く分布する。体は強く側扁(そくへん)し、体高は高い。頭の外郭はきわめて急角度で、吻(ふん)から項部（背びれ起部より前の後頭部）は直線状。吻端は鈍く、吻長は眼径に等しいか、それよりすこし長い。目は吻端と尾柄(びへい)中央部を結ぶ水平線より上にある。上顎(じょうがく)の後端は瞳孔(どうこう)の前縁下方に達するが、わずかにそこを越える。上下両顎に絨毛(じゅうもう)状の歯帯があり、前端で幅が広い。鋤骨(じょこつ)（頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨）に菱形(ひしがた)の歯帯がある。鰓耙(さいは)は上枝に10～15本、下枝に20～24本。背びれは2基で、第1背びれは8棘(きょく)、第2背びれは1棘19～22軟条。臀(しり)びれは1棘16～18軟条で、前方に2本の遊離棘がある。第2背びれの前部の軟条は頭長より長く、糸状に伸びる。成熟した雄では第2背びれの中央部の3～12本が糸状に伸長する。側線は緩く湾曲し、第2背びれの第10～12軟条下に達した後、体側の中央を後方に向かって直走する。直走部の長さは湾曲部より短く、湾曲部のおよそ70～90％。稜鱗(りょうりん)（鋭い突起を備えた肥大した鱗(うろこ)。一般には「ぜんご」「ぜいご」ともいう）は小さく、11～24枚。胸部の腹面に無鱗域があり、後端は腹びれの基底起部を越える。側面の無鱗域は胸びれの基底の無鱗域に達する。体は背側面では青緑色で、腹側面では銀色。第1背びれは黒く、第2背びれと臀びれは淡色～暗色で、それらの前縁は暗色～黒色。尾びれは灰色で、縁辺は黒色。腹びれは体長15センチメートルくらいまでは黒いが、それより大きくなると薄くなる。鰓蓋上端に黒色斑(はん)がある。水深60メートル以浅の岩礁やサンゴ礁にすむが、ときどき浅い湾内でも見られる。成魚は単独で沿岸の礁にいたり、小さい群れで礁の縁に沿って遊泳したりしている。稚魚は河口域に侵入することもある。最大全長は約58センチメートルになるが、普通は全長30センチメートルのものが多い。定置網などで混獲される。刺身、煮魚、塩焼き、フライなどにするとおいしい。
眼径が吻長に等しいか、吻長より長く、雄の背びれと臀びれの中央部の数軟条が長く伸びることでリュウキュウヨロイアジA. hedlandensisに似るが、リュウキュウヨロイアジは下枝鰓耙数が少なくて14～17本であること、頭部の背縁はいくぶん強く湾曲することなどで本種と区別できる。
両種は、以前はヨロイアジ属Carangoidesに入れられていたが、魚類研究者の木村清志(せいし)（1953― ）らによる、2022年（令和4）のDNAの分析と形態の観察によって、クボアジ属Atropusに移された。
［尼岡邦夫 2024年4月17日］