おもにヨーロッパ最北部のラップランドに住む人たち。自称はサーミSámi(サーメSaame)。正確な人口は不明だが,ノルウェーに約2万5000人,スウェーデンに約1万7000人,フィンランドに約6000人,ロシア連邦に2000人弱,全体で約5万~7万人といわれている。しかし,とくにノルウェーでは広大な地域にまばらに居住しているため人口調査が困難であり,4ヵ国に共通する算定基準はない。また混血も行われている。したがって,何を基準にするかによって,ラップ人の合計に開きが出てくる。そのうちラップ語(サーミ語)を母語とするのは2万とも3万人ともいわれる。ラップ語はウラル語族のフィン・ウゴル語派に属し,フィンランド語と近い関係にある。ラップ人の顔つきは他の北欧人とあまり変りはないが,背が少し低い。色彩豊かな民族衣装が特徴的で,とくに冬にそれを着ると暖かいこともあって,今でも通常着用されている。居住地により,森ラップ人,山ラップ人,海ラップ人に大別されるが,トナカイ飼育と漁業は昔も今も重要な生活手段である。宗教はほとんどがルター派のプロテスタントである。
ラップ語とフィンランド語は近い関係にあるが,ラップ人とフィンランド人は違う人種であるというのが通説である。この問題に関して多くの仮説が出されたが,1896年のスウェーデン人ビクルンドKarl Bernhard Wiklund(1868-1934)の〈言語交換説〉は今でも支持を得ている。すなわち,ラップ人とフィンランド人はもともと違う人種で違う言語を話していたが,両者の接触の結果ラップ人は自分たちの言語を捨て,フィンランド人の言語を話すようになったという説である。これをさらに発展させ,ラップ人はもとサモエード人であったとする説も行われている。このなぞを解くため,その後も多くの学者が研究を続けているが,いまだに決定的な結論は出ていない。人体測定の結果がラップ人をもっと東の民族と結びつけようとするのに対し,ヨーロッパ人に特徴的なA2型の血液型をラップ人も多くもっているという事実は,ヨーロッパ人との結びつきを重視させる。また同じラップ人の中でも,東と西の種族で血液型その他に違いが多いことも明らかになってきた。また今ではもうその存在が確かめられない先住民のものと思われる遺伝子が現れている。
執筆者:荻島 崇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
「サミ人」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このためフィンランド語とスウェーデン語がフィンランド共和国の公用語とされている。さらにフィンランドの北辺ラップランドには2240人ほどのサーミ人(ラップ人)が住んでいる。サーミ人は人種的にフィンランド人と異なっているのに,サーミ語は言語的にフィンランド語に近い。…
※「ラップ人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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