サーミ(読み)さーみ(英語表記)Saami

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サーミ」の意味・わかりやすい解説

サーミ
さーみ
Saami
Sami

スカンジナビア半島北部からフィンランド北部、ロシア領コラ半島にかけて居住する人々。かつてはラップLappとよばれたが、これは蔑称(べっしょう)であるため、現在ではほとんど用いられない。人口は4~5万といわれるが確実な統計はない。彼らの祖先はボルガ川流域から西進し、紀元前1000年ごろフィン人やエストニア人らと分かれて北進し、スカンジナビア半島から現在のフィンランド全域にあたる地域に分散したといわれる。その後、紀元後100年ころからフィン人、スウェーデン人、ノルウェー人らの北上によって彼らの支配を受けるとともに、フィンランドでは19世紀までに北辺を除いて全地域でフィン人と同化するか駆逐されてしまった。サーミはスカンジナビアに移住してきた当時より、狩猟漁労を主生業としてきたが、居住地域の相違から、山岳サーミ、森林サーミ、海岸サーミの三つのグループに大別される。

 山岳サーミは内陸の山岳地帯に居住し、少数のトナカイをそり牽引(けんいん)用に飼いながら狩猟を主生業とする人々であった。森林サーミはノルウェー、フィンランド北部、コラ半島の森林地帯に居住し、やはり狩猟を主生業としていたが、湖沼や河川での漁労も大きな比重を占めていた。この両サーミの狩りのおもな獲物は野生トナカイで、わなや落し穴などによる協同狩猟を行い、獲物と猟場を求めて季節的に移動を繰り返していた。しかし、18世紀ころより野生トナカイの消滅によって、飼育トナカイを積極的に増やす傾向が生まれ、おもに山岳サーミの間で大規模なトナカイ遊牧が普及した。これにより彼らのトナカイ飼育は、肉と毛皮を生産するための活動に変わっていく。海岸サーミはノルウェー北部の海岸地帯に居住し、おもに海での漁労に従事していた。彼らは人口的にはもっとも多いとされているが、文化変容が著しく、現在は周辺のノルウェー人漁民とほとんど見分けがつかない。

 サーミの物質文化は周辺の北欧人の影響が強いが、移動に適した円錐(えんすい)形の天幕、防寒用に壁を泥で固めた住居などはシベリアなど他の寒冷地の狩猟民にも共通のものである。また、赤、青などの原色を使った厚手の毛織物の衣装はサーミ独特のものである。彼らの信仰は一般的に元来シャマニズム(シャーマニズム)や自然崇拝などを伴うものであったが、近世以降の布教によってほとんどがルター派のプロテスタントになり、ロシア領だったコラ半島の住民はロシア正教に帰依(きえ)した。

 機械文明が浸透する第二次世界大戦以降は自動車と雪上車の普及でトナカイぞりが消滅し、近代的な村や都市に居住するものが圧倒的多数派となるなど、大きな変貌(へんぼう)を遂げた。しかし、サーミ語の教育を推進し、伝統工芸の職人を養成するなど、独自の文化を保存し、後世に伝える努力も熱心になされている。

[佐々木史郎]

『葛野浩昭著『トナカイの社会誌――北緯七〇度の放牧者たち――』(1990・河合出版)』

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