日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラルボー」の意味・わかりやすい解説
ラルボー
らるぼー
Valery Larbaud
(1881―1957)
フランスの作家。ビシーの富裕な鉱泉経営者の一人息子に生まれる。病気保養も兼ねて幼少期からヨーロッパ各地を旅行、とりわけ17歳の夏から秋にかけてロシアやトルコまで足を伸ばし、「コスモポリティスムcosmopolitisme文学の旗手」としての素地を培った。1896年、15歳で処女詩集『柱廊』を自費出版、20歳のときコールリッジの『老水夫の歌』を翻訳、1908年同じく自費出版した『富裕な好事家(こうずか)の詩』Poèmes par un riche amateurを母胎に、13年の『A・O・バルナブース全集』によって文名を確立した。短編1、詩、日記からなるこの作品は、プルーストの『失われた時を求めて』(1913~27)やアポリネールの『アルコール』(1913)と並んで、20世紀フランス文学に新感覚の息吹と視野の拡大をもたらした。初期作品『フェルミナ・マルケス』Fermina Marquez(1911)、短編集『幼ごころ』Enfantines(1918)も捨てがたいが、『恋人よ、幸せな恋人よ』Amants, heureux amants(1921)に代表される3部作も、ジョイスの「内的独白」を取り入れた作品として重要である。2冊のエッセイ集『黄・青・白』(1927)、『ローマの旗の下に』(1938)は、ヨーロッパの古今に通じた文人ラルボー像を浮き彫りにしている。
[岩崎 力]
『新庄嘉章訳『美わしきフェルミナ』(新潮文庫)』▽『岩崎力訳『A・O・バルナブース全集』(1973・河出書房新社)』▽『岩崎力訳『罰せられざる悪徳・読書』(1998・みすず書房)』