日本大百科全書(ニッポニカ) 「リクテンスタイン」の意味・わかりやすい解説
リクテンスタイン
りくてんすたいん
Roy Lichtenstein
(1923―1997)
アメリカの画家。ポップ・アートの先駆的作家として知られる。ニューヨーク市に生まれ、オハイオ州立大学付属美術学校に入学。一時兵役で中断後、1949年同大学に復学し、修士号取得。抽象表現主義的な作風を中心に作品を発表していたが、1960年にニュー・ジャージー州ラトガース大学で助教授の職を得てから、アラン・カプローをはじめニューヨークのアーティストたちとの交流を深め、日常的環境やポップなイメージに関心を抱くようになる。抽象絵画には関心を示さないが、漫画には強い興味をみせる自分の子供の反応が、より日常生活に近い漫画を絵画の主題として描く契機になったという。1962年、彼の作品に興味を示したレオ・キャステリ画廊が、漫画のイメージを取り入れた最初の個展を開催し、その後に高い評価を受けるポップ・アーティストとしてのキャリアを踏み出した。
新聞、雑誌の続きもの漫画の一こまをカンバスの大画面に拡大した絵画はマスメディアから採用されたもので、太い輪郭線、平板で単純化された色彩、登場人物の吹き出しの台詞(せりふ)から印刷技術に固有のベンデイ・ドット(印刷の網点)までが油絵の具で正確に模倣されている。しかし、そこにはリクテンスタイン特有の構図と変形が加えられ、登場人物の交わす会話にも特別な意味がある。通俗な漫画の手法を採用しながらも、作者自身は知的であり、作品には芸術に対する皮肉や愛憎が暗示されていることが多い。
初期の絵画には恋愛や戦争シーンが多くみられたが、やがて風景や日用品が描かれる。さらに、印象派、未来派、立体派などの名作のパロディと引用をしばしば用いたが、それらの作品は複製文化時代のなかの芸術についての痛烈なイロニーに満ちている。作品のモチーフには、ミッキー・マウスから鏡の面、純粋抽象に至る多様性がみられるが、一貫して漫画的でハード・エッジ風のスタイルを失うことはなかった。これらの絵画のほか、立体作品、陶器の製作も行った。
[石崎浩一郎 2018年12月13日]
『ジャック・コワート著、高島平吾訳『ロイ・リキテンスタイン展 ポップの神話を超えて』(1983・西武美術館)』▽『ローレンス・アロウェイ著、高見堅志郎他訳『ロイ・リキテンスタイン』(1990・美術出版社)』▽『『現代美術10 リキテンスタイン』(1992・講談社)』▽『広本伸幸監修『リキテンスタイン展 版画の宇宙 1948―1997』(1998・「リキテンスタイン―版画の宇宙―展」実行委員会)』