リメス(読み)りめす(その他表記)limes ラテン語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リメス」の意味・わかりやすい解説

リメス
りめす
limes ラテン語

ローマ帝国の辺境ないしは国境をいう。当初は、土地分割の境目となる道路を意味したにすぎないが、軍隊の遠征活動に伴って切り開かれた軍道を意味するようになった。これらに沿って要塞(ようさい)や見張所が設置されたが、属州地の拡大が終止するにつれて、これらの守備施設を連結する境界線としての国境の観念が生まれた。たとえば、タキトゥスにあっては、外地との境界をなす河川をさすリパripaと並んで、国境概念としてのリメスが用いられている。天然の遮断物に恵まれない場合には、ドミティアヌス帝(在位81~96)やハドリアヌス帝(在位117~138)などによって、堀、土塁、柵、石壁などの防備施設を築く努力がなされた。なかでも、ブリタニア(現在のイングランド)の「ハドリアヌスの長城」やライン川とドナウ川とを結ぶ防御柵などは有名である。

[本村凌二]

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改訂新版 世界大百科事典 「リメス」の意味・わかりやすい解説

リメス
limes

ローマ帝政初期には単に小道あるいは道を意味したにすぎないが,のち敵地への軍事行動の際に軍隊により切り開かれた道を意味するようになったラテン語。次いでこの語は防備された哨所や信号塔を備えた軍道を,そしてついには帝国国境を意味するに至った。ローマの拡大が続いている間は,静止した国境という考えは存在しなかったが,拡大の速度が緩み,ついには拡大が止まると,国境という概念が生じた。河川や山脈などの自然の遮断物が存在しない地域では,ドミティアヌス帝の時代以後,石壁,柵,堀,土塁などの人造の遮断物が築かれるようになった。ブリタニアにおける石造の〈ハドリアヌスの防壁〉と〈アントニヌスの防壁〉,ドナウ川上流とライン川上流を結ぶ地域における柵,ヌミディアにおける堀などが大規模なものである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リメス」の意味・わかりやすい解説

リメス
limes

ローマ帝国の国境。特に柵,土塁,砦などで補強された長城をさす。元来はラテン語で道を意味する語。軍道のうち他部族との境界をなすにいたったものが国境線としてウェスパシアヌス,ドミチアヌス,ハドリアヌスらの諸帝によって建設,補強された。ライン,ドナウ以北には柵の国境がおかれたが,カラカラ帝 (在位 212~217) のとき,石壁,土塁,および一部は溝に変えられた。しかし北方のリメスは 260年頃蛮族の侵入でライン,ドナウの自然国境まで後退。またブリタニアのリメスはハドリアヌス長城として有名で,遺構が残存する。さらに黒海地方,シリア,北アフリカにもさまざまの形でリメスが築かれ一部は現存する。帝国末期からは国境守備が重要となり,リミタネイと呼ばれる国境防衛軍がおかれたが,屯田兵として耕作をも行なった。

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世界大百科事典(旧版)内のリメスの言及

【ウマ(馬)】より

…ただ騎馬の出現の歴史的意味は,この程度のことにとどまるものではなかった。中国の万里の長城,またローマ帝国の東方防衛のための城塞(じようさい)(リメスlimes)は,中央アジアから押し出てくる騎馬民族に対する防衛線として構想された大土木工事である。また北欧にまで延々とのびるローマ道は,駅伝制を伴う馬による情報伝達の飛躍的増加と無関係ではない。…

【ウマ(馬)】より

…ただ騎馬の出現の歴史的意味は,この程度のことにとどまるものではなかった。中国の万里の長城,またローマ帝国の東方防衛のための城塞(じようさい)(リメスlimes)は,中央アジアから押し出てくる騎馬民族に対する防衛線として構想された大土木工事である。また北欧にまで延々とのびるローマ道は,駅伝制を伴う馬による情報伝達の飛躍的増加と無関係ではない。…

【ゲルマン人】より

… こうしてローマの盛時といわれるアウグストゥス帝の時代に入ると,ローマはエルベ川とその支流モルダウ川から,ドナウ川を結ぶ線まで,帝国の境界を広げようとしばしば兵を出した結果,ライン,エルベ両川間のゲルマン諸族は,しばらくローマとゆるい従属関係を保ち,その間だけは大きな紛争はなかった。ところが後9年,ローマの総督ウァルスPublius Quintilius Varusが,トイトブルクの森で,ケルスキ族の長アルミニウスの軍の奇襲をうけて大敗を喫して以来(トイトブルクの戦),ローマは守勢に転ずることとなり,ライン川の中流からドナウ川の上流に達する三角地帯に長城(リメス)を築いて,ゲルマン人の侵入に備えることとなった。ローマはまたライン川左岸に下ゲルマニア,上ゲルマニアの二つの属州を設け(ゲルマニア),三角地帯のデクマテス地方に多数の城砦を築いたため,これらの地域にはローマ文化の影響が色濃く印せられた。…

【ローマ】より

…ウェスパシアヌスは国庫を豊かにしたので2人の息子の浪費をもちこたえることができた。国境では,ラインとドナウの線を長城(リメス)によって固め,ブリタニアではスコットランドにまで征服を進めた。しかしドミティアヌスの専制的傾向はストア学派などの哲学者の批判を呼び,元老院と対立し,密告と反逆罪処刑との連続という恐怖政治の中で暗殺された。…

※「リメス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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