リン中毒(読み)りんちゅうどく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リン中毒」の意味・わかりやすい解説

リン中毒
りんちゅうどく

リンによる中毒で、黄リンのほか、農薬として使用される有機リン剤によるものがある。黄リンはリン酸など各種のリン化合物の原料となり、また殺鼠(さっそ)剤(猫いらず)の主剤として用いられていた。なお、古くは黄リンマッチとして広く使用されていたが、1921年(大正10)にその使用が禁止され、現在は製造も禁止されている。

 黄リンは、成人についての致死量が20~100ミリグラム、猫いらずでは0.2~1.0グラムという強い毒性をもつ物質である。経口摂取した場合には、1~2時間以内に悪心(おしん)(吐き気)、嘔吐(おうと)、胃痛、ニンニク臭のあるげっぷなどが始まり、一時症状は治まるが、1~2日後に嘔吐、下痢肝臓部痛などの症状が現れ、重症では黄色肝萎縮(いしゅく)症で死亡する。死亡しない場合でも、肝臓や腎(じん)臓が侵されて黄疸(おうだん)やタンパク尿、血尿が出る。黄リンの粉塵(ふんじん)を長期間吸入していると、下顎(かがく)骨の壊死(えし)、骨膜炎、骨髄炎をおこすのが特徴である。

 有機リン系農薬が殺虫剤として有効なのは、有機リン剤が、昆虫などの神経の伝達系に必要なコリンエステラーゼ作用を阻害することによる。この機序が人に対しても中毒の原因として作用する。有機リン剤中毒は、ムスカリン様作用(副交感神経末梢(まっしょう)刺激作用)とニコチン様作用横紋筋に対する作用)、交感神経作用および中枢神経作用に分けられる。

 なお、毒性の強い有機リン剤であるパラチオンは、日本では使用が禁止され、低毒性のものにかわってきている。

[重田定義]

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百科事典マイペディア 「リン中毒」の意味・わかりやすい解説

リン(燐)中毒【リンちゅうどく】

黄リンまたは有機リン化合物による中毒。黄リン中毒は黄リン配合の殺鼠(さっそ)剤(猫(ねこ)いらず)によるものが代表的で,肝臓・胃腸障害,意識障害などを示し,重症のものは死亡する。治療は胃洗浄,下剤・催吐薬投与など。有機リン中毒はパラチオン等の有機リン殺虫剤の誤用によるものが代表的で,組織のコリンエステラーゼの作用が阻害される結果,縮瞳(しゅくどう),発汗,流涎(りゅうえん),嘔吐(おうと),下痢,頻脈(ひんみゃく),痙攣(けいれん),呼吸筋麻痺(まひ),意識障害などを呈する。治療はパム(PAM)やアトロピンの投与,人工呼吸など。
→関連項目リン(燐)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リン中毒」の意味・わかりやすい解説

リン中毒
リンちゅうどく
phosphorus poisoning

黄リンおよびリン化水素による中毒症。黄リンは空気中で容易に発火し,非常に毒性が強い。急性の場合は麻痺様症状や胃腸症状を起し急死する。多くは3~8日以上の亜急性の経過をとり,発熱,嘔吐,腹痛,下痢があり,皮膚出血などをみるほか,蛋白尿が出て,数日後に黄疸を起す。農業に使用される有機リンは骨,肉のほか,ことに肝臓の障害を起す。黄リンを取扱う工場の職業病にリン中毒性顎骨壊疽がある。急性の治療はまず胃洗浄で,催吐剤には過酸化水素水,硫酸銅液などを用い,吸着剤に獣炭末を与え,腸洗浄のほか強心剤の投与や輸液を行う。

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