ルイ王朝様式(読み)るいおうちょうようしき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルイ王朝様式」の意味・わかりやすい解説

ルイ王朝様式
るいおうちょうようしき

フランスのルイ14世(在位1643~1715)から、19世紀前半のルイ・フィリップ(在位1830~48)の治世にかけて流行した装飾美術の様式の総称。とくに室内装飾や家具に特色があり、それらは君主の好みや求めによってつくられたので、各時代の様式にはそれぞれの君主名がつけられている。

友部 直]

ルイ14世様式

le style Louis ⅩⅣ 太陽王といわれたルイ14世は国家的事業であるベルサイユ宮殿造営にあたって自ら建設の指揮をとり、豪壮・華麗な室内装飾や工芸品で宮殿内を飾った。様式はイタリア・バロックの影響をみせながらも、絶対君主の尊厳と栄光を強調しており、この風潮はベルサイユ宮殿のみならず、他の宮殿にも及んだ。代表的な建築としては、ルボーによるベルサイユ宮殿の室内、とくにアルドゥアン・マンサールの「鏡の間」、ルブランの天井装飾画、マンサールとロベール・ド・コットの内部装飾による王室礼拝堂のほか、クロード・ペローによるルーブル宮がある。工芸では1662年に創設された王立ゴブラン製作所で、画家ルブランの指導のもとにいわゆるゴブラン織、じゅうたん、家具など多くの優れた製品がつくられた。ことにルイ14世の事績を織った14枚のタペストリーはその豪華な作例といえよう。めっき、象眼(ぞうがん)など金工品の技法も発達し、食器、装飾品などでも曲線が踊り狂うと評されたバロックのダイナミックな彫金が豪華さを競い合った。

 家具にはその所有者のステータス・シンボルを明示するための装飾が施された。ルイ14世の宮廷作法は厳格で、身分、位階、王の愛顧の度合いに応じて着座する椅子(いす)や腰掛のデザインに格差が設けられた。フォトゥーユとよばれる肘(ひじ)掛け椅子に座するのは君主に限られ、木部は彫刻や塗金、象眼が施され、背と座をゴブラン織で張り込みにした椅子である。また4脚のタブレや折り畳み式のプリアンとよばれる腰掛け式椅子は、上流婦人のうちでも国王に許可された女性だけが腰掛ける特権を与えられていた。いずれも脚部や座枠に塗金し、綴織(つづれおり)やビロードのクッションをのせて使用した。家具作家アンドレ・シャルル・ブールは、象牙(ぞうげ)、ベっこう、金、銀、銅、真鍮(しんちゅう)などを家具木部に象眼、ブールのマーケットリとしてルイ14世式家具の特色となった。

[友部 直]

レジャンス様式

le style Régence 太陽王没後、幼いルイ15世の摂政(レジャンス)としてオルレアン公フィリップが国務を代行した時期(1715~23)に流行した様式。荘重なバロックのルイ14世様式から解放されて、軽快で優雅な趣向が好まれるようになる。装飾のモチーフとして従来の植物文・動物文のほかに支那(しな)趣味が導入され、建築内部も柱身に装飾を施し、壁面は湾曲して天井に移行し、壁にメダイヨンとよぶ楕円(だえん)形の絵が掛けられ、窓や出入口にアーチ形が採用された。この時代および次のロココ初期を代表する家具作家にシャルル・クレッサン、建築家にジル・マリー・オプノール、ロベール・ド・コットらがいる。レジャンス時代は短くはあったがきわめて質の高い装飾芸術をみせ、次のロココへの先駆となった。

[友部 直]

ルイ15世様式

le style Louis ⅩⅤ ルイ15世の治世(1715~74)のうち1730年ごろからほぼ30年間にわたって流行し、フランスのロココ様式を形成してヨーロッパの宮廷芸術に大きな影響を与えた。その特徴は、ルイ14世時代の荘重な権威主義にかわって軽快、優美、機知、洗練さなどが重視され、建築も巨大な広間よりも快適な小室が好まれ、パリ近郊にパビヨンとかオテルとよぶ小規模な貴族の邸館がつくられて、建物の外観よりも室内装飾に重点が置かれた。オテル建築では、ガブリエル・ジェルマン・ボフラン設計のパリの多くのオテルがある。宮廷は優雅な社交場であり、人々はアルコーブとよばれる婦人の私室に集まって社交生活を楽しんだ。その結果、家具調度にも女性の趣味が強く反映された。家具もコモードとよばれる洋だんすや肘掛け椅子は、バロックの太くたくましい脚部から細く軽やかな曲線へと変わった。ガブリオル(曲り脚)はロココ時代の椅子の脚に共通したデザインで、バレリーナの跳躍(ガブリオル)から取り入れたといわれ、日本では「猫脚」とよんでいる。角のとれた背もたれや低い扇形の座など、疲れない自然な姿勢で掛けられるように座り心地のよさが重視され、人間工学的にも優れた作品が数多くつくりだされた。装飾モチーフとしては渦巻、アカンサスの葉、ロカイユとよばれる貝殻装飾、連続唐草(からくさ)が引き続き用いられ、壁面もアイボリー・ホワイトなどのパステルカラーが好まれた。家具に中国風の漆や磁器が用いられたのもこの時代の特色で、セーブルの王立磁器製作工場でつくられたタイルがテーブルの天板や棚に用いられ、また遊戯的な情趣の磁器の小彫刻がインテリアに使われた。この時代の代表作家に家具には、シャルル・クレッサン、金工にジュスト・オレール・メソニエ、ジャックとフィリップのカフィエリ父子らがいる。

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ルイ16世様式

le style Louis ⅩⅥ ルイ16世の治世(1774~91)に盛行した様式。前代の優美繊細なロココへの反動として、ポンペイなどの古代遺跡の発掘に刺激され、簡素、端正な新古典主義ともいうべき様式が生まれた。建築はA・G・ガブリエル設計の小トリアノン(ベルサイユ)、スーフロー設計のパンテオン(パリ)に代表される簡素明快な形式で、椅子の脚に古代建築の柱身を模した縦溝を彫ったり、飾り棚にも古代風な女神像を置くなど古典回帰がみられる。収納家具は曲線が影を潜め、四角で容量は増えたが、椅子は直線でかならずしも座り心地がよいとはいえない。家具・金工の代表作家にジャン・アンリ・リースネル、アダム・ウェースウェーレル、ダービト・レントゲンらがいる。

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ルイ・フィリップ様式

le style Louis Phillippe ルイ・フィリップの治世(1830~48)の王政復古時代に流行した様式。イギリスの初期ビクトリア様式、ドイツのビーダーマイアー様式(メッテルニヒ体制下の1815~48年の様式でとくに家具の意匠に現れている)と並行する。ナポレオン時代の堅苦しいアンピール様式から脱してルイ王朝風の軽快な作風が復活し、イギリスのビクトリア様式と多くの共通性をもつ。当時開発された新素材や技法を取り入れてはいるが、モチーフの扱い方などはロココの表面的な模倣や過剰な装飾、猫脚の乱用が目だち、一貫した装飾理念がみられない。こうして19世紀末には質的にも低下したまま20世紀へと引き継がれることになる。

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出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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