レモンバーム(読み)れもんばーむ(英語表記)lemon balm

翻訳|lemon balm

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レモンバーム」の意味・わかりやすい解説

レモンバーム
れもんばーむ
lemon balm
[学] Melissa officinalis L.

シソ科(APG分類:シソ科)の多年草で、和名はコウスイハッカ、セイヨウヤマハッカ。ハーブとして利用される。原産地は南ヨーロッパ。高さ80センチメートルに達し、茎は分枝する。葉は対生し、広卵形鋸歯(きょし)があり、葉脈がはっきりしている。6~9月に葉のつけ根のところに白い小さな花が咲く。葉はレモンに似た香りがする。ギリシア語で蜜(みつ)を意味するメリッケとよばれるくらい蜂蜜(はちみつ)と深いかかわりがある。ビー・バームミツバチをひきつける香り)ともよばれ、古代ローマの人々は蜂の巣箱にこの葉をふりかけて蜂が逃げるのを防いだ。さらにほかの蜂さえも巣箱に呼び寄せることができるとして、蜜源植物として扱ってきたのである。

[森田洋子・福田泰二 2021年9月17日]

利用

レモンの香りを生かして生の葉をハーブ・ティーに、また刻んでホワイトソースやマヨネーズの風味づけにしてもよい。さわやかな香りは、フルーツサラダやフルーツドリンクに浮かべたり、マドレーヌやチーズケーキに加えることもできる。

 葉は、ローマ時代のギリシア系植物学者ディオスコリデスの時代から、止血、炎症を押さえる傷薬とされてきた。16世紀、スイス人の医者パラケルススは、「不老長寿の秘薬」とたたえ、イスラムの医学者イブン・シーナーは「抑鬱(よくうつ)症に効き目を現す」と推奨した。ロンドンの診療所で1696年に書かれた施薬録のなかに「レモンバームは若さが戻り、自然の老化を止める。脳を強くし、頭のはげるのも防ぐ」という記述が残されている。葉に含まれるポリフェノールタンニンが抗ウイルス作用を示すことから、熱を伴うかぜに効果がある。また、オイゲノールの抗痙攣(けいれん)作用により、消化を助け、胃腸の痛みを和らげる。さらにシトロネールはごくわずかな濃度でも、不安、鬱状態、不眠症、神経性の頭痛などに鎮静効果を示す。生の葉に含まれる成分は乾燥される過程でなくなってしまうので、できるだけ生葉を用いるのが望ましい。虫刺され、切り傷などには、直接患部に貼(は)るなど、手軽に使える薬草である。入浴剤に用いて、香りを楽しむのもよい。

 夏の日差しを嫌うので、日陰で湿気のある場所に植える。果樹園のまわりに植えると蜂が集まり受粉を助けてくれる。鉢植えにして出窓などに置くと、冬でも生葉が利用できる。

[森田洋子・福田泰二 2021年9月17日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レモンバーム」の意味・わかりやすい解説

レモンバーム
Melissa officinalis; bee balm; lemon balm; common balm

南ヨーロッパ原産のシソ科多年草で,和名はセイヨウヤマハッカ。葉は広卵形で対生し,レモンに似た香りがあり,ハーブとして茶や料理に使われる。小さな白花が上部の葉腋に散形花序を形成。開花するとよくミツバチをひきつけることから,ギリシア語でミツバチを意味する属名がつけられた。草丈は 30~50cm。耐寒性が強く,高温多湿にも耐え育てやすい。夏に茂り過ぎたら,枝ごと間引くか切りつめて整理すれば,新しい枝が再生する。冬期地上部は枯れるが,翌春再び芽吹く。春または秋に種子をまいて育てる。こぼれ種でよくふえる。

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