プロティノス(読み)ぷろてぃのす(英語表記)Plotinos

日本大百科全書(ニッポニカ) 「プロティノス」の意味・わかりやすい解説

プロティノス
ぷろてぃのす
Plotinos
(205―269/270)

ヨーロッパ古代末期を代表するギリシア哲学者、神秘思想家。アレクサンドリアの近くに生まれ、アンモニオス・サッカスに学び、東方の知恵を求めて、39歳のときゴルディアヌス帝Gordianus Ⅲ(在位238~241)の東方遠征に加わるが、遠征の挫折(ざせつ)により果たさず、40歳でローマに上り、学校を開き、多くの友人、門弟を集め、尊崇を受けた。プラトンに傾倒し、自分の哲学をプラトン哲学の祖述とみなした。そこで、彼とその弟子たちは、当時の人からはプラトン主義者、後世の人からは新プラトン主義者とよばれる。しかし、そこにはアリストテレス、ストア派などの影響も大きく、古代ギリシア哲学の一大総合体系となっている。また、時代の一元論的、宗教的な傾向に応じ、魂の解脱を目ざす救済の哲学でもある。著作は、9篇(へん)ずつに分けられた6巻の論稿からなるところから『エンネアデス』(「九篇集」の意味)とよばれる。

 彼によれば、「一者」(ト・ヘン)がいっさいの存在事物の源泉である。一者はその存在の充溢(じゅういつ)により、それが存在することによって、そのもの以外の存在事物をそのものの外に生み出す。これが「溢出または流出aporrhoē, emanatio」とよばれる(流出説)。この際、一者そのものはなんら損なわれることはない。存在の働きを自己以外のものを生み出す創造の働きとして把握するこの直観は、ギリシア哲学の達したもっとも美しい直観の一つである。「汎神論(はんしんろん)」といわれる通俗の理解はけっしてその正鵠(せいこく)を射るものではない。一者から生み出された下位の存在事物は、同じ存在の働きにより、その下に他の存在事物を生む。こうして、世界は、光がその源から発してしだいに光度を弱め、ついに闇(やみ)のうちに消え入るように、一者の光輝として存在し、しだいに存在の度を低めてついに無(非存在、質料)に至る多様な存在者の位階秩序として把握された。それは、一者がその同一性そのものによって生み出す他と多の世界である。理性、魂、生物はそのおもな段階である。

 哲学(愛知)とは、魂をもつ存在事物である人間が、源泉である一者へと、他と多の世界から離れて還(かえ)る過程である。一者とは、存在事物が存在する限りでもつ統一性の根拠であるが、一者そのものはいかなる多をも含まず、したがって、分別の原理であることばや理性によっては把握されず、ことばによる分別を超え、「脱我ekstasis」として「融一henosis」されるとした。中世の神秘思想と体系神学への影響が大きい。

[加藤信朗 2015年1月20日]

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