新約聖書の一つ。伝統的にゼベダイの子使徒ヨハネがエペソ(エフェソス)で書いたとされるが,最近の研究では匿名の著者により後1世紀末にパレスティナ・シリア地方で書かれたと考えられている。他の三つの正典福音書のいずれにも直接依存せず,一部独自の伝承を用いている。思想的にも独特で,とりわけキリスト論に関心を集中している。万物に先立ち神とともにあった〈ことば〉が〈受肉〉(1:14)して世に到来し,神を啓示し,十字架の上にその業(わざ)を〈完成〉した後,再び〈父〉のもとへと帰る(13:1,19:30)。この啓示への個々人の決断において信仰と不信仰,生命と死,光と闇への裁きがすでに今ここでできごととなる。これを表現する〈ヨハネ的言語〉もまた新約聖書中独特なものである。
執筆者:大貫 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…原罪や〈最後の審判〉でさえ,預言者とそれに続く黙示思想家とによって,イスラエルの歴史と運命の問題として自覚されたのであって,けっして初めからあった抽象的な観念ではない。聖書の罪意識はまったく具体的・現実的なので,たとえば《イザヤ書》45章のように神は〈光をつくり,闇を創造する〉といった,ゾロアスター教の二元論すれすれのことがいわれ,《ヨハネによる福音書》のようにグノーシス的二元論をかかえこむことすらある。あるいは,イエスは病気癒(いや)しの奇跡を多く行ったが,これが罪の赦し(贖罪)と一つであって,およそご利益宗教的ではなかったことは,先に述べた罪の全体性からしてのみ理解されよう。…
…後2世紀以後の呼称で,イエスの言葉と業(わざ)を相互に連関させ,その死にいたるまでを叙述する文書を指す。最古の《マルコによる福音書》は後70年ころ,《マタイによる福音書》と《ルカによる福音書》が80‐90年,《ヨハネによる福音書》が100年ころの成立と考えられる。〈……による福音書〉という語法には,元来一つであるべきイエスの救いの〈福音〉を異なる複数の視点から表現するものという意味が含まれる。…
…歴史的にみても,イエスに最も早くから従った弟子の一人であったものと思われる。 原始エルサレム教会の成立の直接のきっかけとなったのは,いったんは離散していた弟子たちに,死んだイエスが“現れた”という〈顕現〉の体験であったが,ヨハネは,この体験を伝える古い伝承(《コリント人への第1の手紙》15:3~7)では〈十二人(十二弟子)〉の中に含められる形で,また,同じ体験について述べる《ヨハネによる福音書》21章でははっきり名前(〈ゼベダイの子ら〉)を挙げられる形で,重要な証人の一人とされている。この点についてはパウロも直筆の手紙の一節(《ガラテヤ人への手紙》2:9)で,48年に異邦人伝道の是非をめぐってエルサレムで行われたいわゆる〈使徒会議〉に関して報告しつつ,エルサレム教会の〈柱として重んじられている〉3人の人物に言及し,〈主の兄弟ヤコブ〉(〈ゼベダイの子ヤコブ〉ではなく,イエスの肉親の兄弟ヤコブ)およびケパ(ペテロ)と並べてヨハネの名前を挙げている。…
…同学派の祖キプロスのゼノンはいう,〈共通なる普遍の法,それこそまさに“正しきロゴスorthos logos”なのであるが,それはあまねく万物にゆきわたるもの,すなわち存在するものいっさいの秩序の主なるゼウスと同一なるものである〉。なお,周知のように新約聖書《ヨハネによる福音書》は〈初めに言(ことば)(ロゴス)があった。言は神と共にあった。…
※「ヨハネによる福音書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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