ロシアの大学改革(読み)ロシアのだいがくかいかく

大学事典 「ロシアの大学改革」の解説

ロシアの大学改革
ロシアのだいがくかいかく

ロシアは,ポスト・ソヴィエト期に入って高等教育の大衆化段階を迎えた。ここでは,とくにその段階における2004年の大統領「教書」以降の大学改革(ロシア)の重点と,全般にわたり抱える課題について述べる。改革の重点は,大学の量的な拡大から活動の集約化と水準引上げへと移動している。

[大学のカテゴリー]

大学改革の対象となる主要大学には三つのカテゴリーがある。

[連邦大学(ロシア)] 2006年以降に指定され,政府誘導で各管区の中心大学に数校を統合して設置される。2014年現在10校で,大学名(所在地)は以下の通り。バルト(カリーニングラード)極東(ウラジオストク)カザン(カザン),クリミヤ(シンフェローポリ)北方(アルハンゲーリスク)北東(ヤクーツク),北カフカース(スターヴロポリ)シベリア(クラスノヤールスク)南方(ロストフ・ナ・ドヌー)ウラル(エカテリンブルグ)。ここに地域開発,学術・文化,情報の各センターとして地域産業との連携,行政・法,教育・医療の人材の地域供給を計画的に担わせるというものである。

[国家研究大学(ロシア)] 2008年秋に指定が開始され,大学自体の研究力量開発と他研究機関との提携により高い水準の教育をめざす大学として競争原理で選抜された。2014年現在29校ある。そこにはバウマン・モスクワ工業大学やピロゴーフ・ロシア医科大学(保健省設置),モスクワ航空大学等の首都モスクワの名門大学のほか,ノヴォシビールスク大学(1959年設立),経済大学校(1992年モスクワに設立,政府直属)サンクト・ペテルブルグ・アカデミー大学(1997年,科学アカデミー設立のナノテクノロジー研究・教育センター大学)など新構想の大学が含まれる。

モスクワ大学サンクト・ペテルブルグ大学] モスクワ大学(ロシア)とサンクト・ペテルブルグ大学(ロシア)の2大学は,2009年の独自の連邦法によって学生受入れ,教育・研究活動の組織,運営その他の裁量に関し特別の地位が付与される。

 これらの措置のほか,重点的強化策としてはさらにロシアの大学生を国外の先進的な大学に留学させる計画が開始されている。2014年の大統領令は学生(科学,教育,医学,工学の学士課程生および経営学分野では学士卒以上に限定)を「世界水準」(世界大学ランキング上位300番以内)の各国大学に派遣する方針を決定し,また極東と東シベリアの支援にかかわらせることを付言している。ここには,学生を知識・技術のキャッチアップがより求められる領域に誘導しようとする狙いや,重点地域の開発の政治姿勢がうかがえる。

[入学制度,教育方法]

入学制度(ロシア)の改善も進められている。大学入試の判断資料とされる中等教育学校の成績調書は,親の圧力により教師が水増し記帳しているとの懸念がソヴィエト期以来絶えなかった。そこで透明化・公平性を期して,統一卒業国家試験(ロシア)(EGE(ロシア))が導入されるに至った。こうした試験は大学入学における学力水準要求の切下げをもたらすとモスクワ大学長サドーフニチーが反対したように,大学の全指導者の支持は得られなかったが,試験は2002年から施行され,2009年からは全中等学校卒業生に必須となっている。

 教育方法と学生観の転換にも課題が残る。学生に対する暗唱指示型の文化がソ連時代から続いているとの批判があったが,現在,教育目標の上で学士課程の専門教養型への転換がはかられるとともに,現場では知識・技能の一方通行型から対話型へと授業法・指導法の転換も生まれつつある。また,学生の健全な社会化の支援策として課外指導・生活指導を復活せよという提案が出されている。一部の大学における学生の大学運営関与の例は注目される。他方で学生への相談事業の充実,その人的資源の確保が緊急の課題とされている。

 また,国立大と非国立大の共存が新時代への期待として模索されている。非国立大学のセクターはすでにロシア教育システムの不可欠な構成部分である。そこでは新しい教育課程が編成され,新しい専攻や現代的な教育テクノロジーが導入されている。教育活動の経験交流と現代的研究活動が進むならば,国立・非国立の共通の教育研究空間づくりに繫がると期待される。

[大学の国際化]

ロシアは2003年,共通ヨーロッパ高等教育圏の創出に関する1999年のボローニャ宣言に加入し,1930年代以来の5年制大学課程から4年の学士課程と2年の修士課程の2段階制への転換で共通化することに舵を切った。これは履修証明の国際的な相互承認を促進するはずである。ロシアの教育を「輸出する」意図もあるようであるが,ロシアに来る外国人学生の増え方はまだかんばしくない。国際化はロシアの大学の条件整備等にまつところもあると考えられる。

 ロシアは自己の生存のための戦いの最中にあるように見える。しかし,その成果もグローバルな経済的・社会的な力に規定されるように見える。したがってロシアにおける大学の未来もローカルの力学とグローバル化のより広い連関の中で形成されよう。
著者: 所伸一

参考文献: Bezborodov, A.B., Istoriya Rossii v noveishee vremya: 1985-2009, gg. Otv. red., 2014.(ベズボロドフ,A.B, 編『最近のロシア史:1985-2009年』,プロスペクト社,2014)

参考文献: ロシア教育・科学省のウェブサイト:http://xn--80abucjiibhv9a. xn--p1ai/

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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