イタリアの映画監督。第2次世界大戦直後に《無防備都市》(1945)を発表して,イタリア映画の復興とともに〈ネオレアリズモ〉の誕生を世界に高らかに告げ,次いで翌年発表した《戦火のかなた》(1946)によって,レジスタンスを母胎とする〈ネオレアリズモ〉の創始者の一人としての確かな名声を得た。この2作品と廃墟のベルリンを舞台にした《ドイツ零年》(1947)は,ロッセリーニの〈戦争三部作〉としてよく知られた作品である。
ローマの裕福な建築家の長男に生まれ,高校を卒業すると早くから関心のあった映画(それもドキュメンタリー)の世界にとびこみ,魚の生態を描いた短編記録映画などを撮る。前記〈戦争三部作〉のうちの《ドイツ零年》の興行的失敗とハリウッド女優イングリッド・バーグマンとの〈不倫の恋〉(1950年には正式に結婚)のあとはヒット作がなく(バーグマン主演の《ストロンボリ》(1949),《ヨーロッパ一九五一年》(1952)等々は,のちにフランスの〈ヌーベル・バーグ〉によって初めて評価されることになる),また作品的には《神の道化師・聖フランチェスコ》(1950)あたりからしだいに魂の宗教的救済というテーマに関心が向かっていき,〈ネオレアリズモからの転向〉として左翼の評論家から非難された。1958年,バーグマンと離婚。59年,〈ネオレアリズモ〉の盟友ビットリオ・デ・シーカ監督を主演に《ロベレ将軍》を,次いで翌年《ローマで夜だった》(1960)をつくって再びレジスタンスの世界に戻ったが,初期の作品がもっていた激烈な現実告発の力は失われたとして評価は低く,以後,映画界からしだいに退いていった。しかし,ロッセリーニがフランスの〈ヌーベル・バーグ〉に与えた影響は大きく,その〈ネオレアリズモ〉の精神は,いわゆる即興演出や隠し撮りといった〈ヌーベル・バーグ〉の作家たちの手法に受け継がれていくことになる。また,早くからテレビに強い関心を示し,《鉄物語》(1965)などのドキュメンタリーのほか,テレビ用の劇映画もつくり,テレビ用の劇映画を劇場用の作品として再編集する(あるいはテレビ用と劇場用に同時につくる)という今日の新しい映画製作の方法を最初に考えたのもロッセリーニであったといわれる。
→ネオレアリズモ
執筆者:吉村 信次郎
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イタリアの映画監督。ローマ生まれ。建築会社を経営する裕福な一家に生まれ、高校卒業資格を得ないまま、趣味の自動車などに熱中する青春時代を送る。『牧神の午後への前奏曲』(1938)など数本の短編ドキュメンタリーを手がけた後、国策映画『空征(ゆ)かば』(1938)の脚本に参加。第二次世界大戦中に海軍省製作の『白い船』(1941)で監督デビュー、「ファシスト三部作」とよばれる『飛行士の帰還』(1942)、『十字架の男』(1943)を完成。戦争終了直後、ナチスによるローマ占領とレジスタンス運動を描いた『無防備都市』(1945)で世界を震撼(しんかん)させ、ネオレアリズモの呼称を一躍広めた。被写体をあるがままにとらえる視線は、連合軍のイタリア解放を六つの挿話で綴った『戦火のかなた』(1946)や、廃墟のベルリンで自殺する少年を主人公にした『ドイツ零年』(1948)でも一貫していた。『ストロンボリ 神の土地』(1949)で出会ったイングリッド・バーグマンと不倫騒動を巻き起こし、1950年に彼女と再婚。即興的な演出で夫婦の危機を見つめた『イタリア旅行』(1954)は、フランスのヌーベル・バーグに多大な影響を与える。『ロベレ将軍』(1959)と『ローマで夜だった』(1960)でネオレアリズモに回帰した後、ガリバルディの長征を描いた『イタリア万歳!』(1960)で歴史映画へと向かう。『鉄の時代』(1965)から『デカルト』(1974)までは、おもにイタリア国営放送(RAI)でテレビ用映画を手がけた後、キリスト教民主党の創設者アルチーデ・デ・ガスペリAlcide De Gasperi(1881―1954)の伝記映画『元年』(1974)とキリストの受難劇『救世主』(1975)の2本をつくった。
[西村安弘]
『M・ヴェルドーネ著、梅本浩志他訳『現代のシネマ10 ロッセリーニ』(1976・三一書房)』▽『ロベルト・ロッセリーニ著、西村安弘訳『ロッセリーニ 私の方法――映画作家が自身を語る』(1997・フィルムアート社)』
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…〈ネオレアリズモ〉の傑作として知られるイタリア映画。《無防備都市》(1945)に続くロベルト・ロッセリーニ監督の1946年の作品で,これに次ぐ《ドイツ零年》(1948)を加えてロッセリーニの〈戦争三部作〉とされる。日本に紹介された版は,アメリカ占領軍(GHQ)の検閲でカットされたためオリジナル版とは異なるものではあったが,《無防備都市》よりも前に公開されたため,これが初めて日本に紹介された〈ネオレアリズモ〉映画になった。…
…1947年製作のイタリア映画。《無防備都市》(1945),《戦火のかなた》(1946)と戦争三部作をなす〈ネオレアリズモ〉の巨匠ロベルト・ロッセリーニ監督作品。1946年に9歳で死亡した長男ロマーノにささげられ,冒頭に,イデオロギーというものは人間生活の基礎を形成する道徳とキリスト教の愛の永遠の戒律から逸脱すれば狂気となるにちがいない,という意味のエピグラフ・タイトルがあるとおり,廃墟と化した第2次世界大戦直後のベルリンを舞台に,ナチのイデオロギーの〈背徳的〉影響を受けた15歳の少年が,病弱な父を毒殺したあげく自殺するいきさつを描く。…
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[誕生と発展]
戦後のイタリアでは,ナチス・ドイツ軍の過酷な弾圧に対する抵抗運動や貧困と生活苦などをテーマにした数々のイタリア映画の傑作が生まれた。ロベルト・ロッセリーニ監督《無防備都市》(1945),《戦火のかなた》(1946),ビットリオ・デ・シーカ監督《靴みがき》(1947),《自転車泥棒》(1948),ルキノ・ビスコンティ監督《揺れる大地》(1948),等々である。これらの作品に共通する現実告発の厳しい態度ときわめてドキュメンタリー的な撮影方法,主人公は貧しく,主としてしろうとを使い,ロケを主体とする現場主義,即興的演出(同時録音はせずに,せりふもすべてアフレコだった),生きたスラングや方言の採用,さらにクローズアップを少なく,ロング・ショットを多用したこと等々に対して,人々は新しいリアリズムの誕生という意味で〈ネオレアリズモ〉と呼んだ。…
…アルフレッド・ヒッチコック監督の《白い恐怖》(1945)につづく《汚名》(1946)を最後にセルズニックとの契約が切れ,マクスウェル・アンダーソンの舞台劇《ロレーヌのジョーン》(1946)で念願のジャンヌ・ダルク役を演じてブロードウェーで好評を得るが,ベストセラー小説を映画化した《凱旋門》(1948)も,《ロレーヌのジョーン》をもとにした《ジャンヌ・ダーク》(1948)も不評に終わる。 自伝《マイ・ストーリー》(1980)によれば,1945年にイタリア映画《無防備都市》(1945)を見たときから〈意識の深層で〉監督ロベルト・ロッセリーニに恋をし,48年に《戦火のかなた》(1946)を見たバーグマンは,夫を捨てて,別居中の妻のいたロッセリーニのもとへ走る。〈聖処女ジャンヌ・ダルクの不倫の恋〉と騒がれたスキャンダルの渦中で〈ネオレアリズモの開祖〉と〈ハリウッドの明眸(めいぼう)〉がつくりあげたイタリア映画《ストロンボリ》(1949)は,駄作として酷評され,そのうえバーグマンは,50年3月,婚姻制度へ挑戦した〈ハリウッドの堕落の使徒〉としてアメリカ上院の議場で攻撃され,アメリカ映画から追放される。…
…〈ネオレアリズモ〉から出て〈ネオレアリズモ〉を変革した重要な監督として知られる。彼の名は《無防備都市》(1945)をはじめとするロベルト・ロッセリーニ監督作品からピエトロ・ジェルミ監督《無法者の掟》(1949),《越境者》(1950)などに至る〈ネオレアリズモ〉の創造的な時代のシナリオライターとして早くから注目されており,〈ネオレアリズモ〉を生み出し,支えてきた重要な担い手の一人として認められていたが,その名声を世界的にした監督第5作《道》(1954。アカデミー外国語映画賞を受賞した)は〈象徴的ネオレアリズモ〉とか〈抒情的ネオレアリズモ〉とよばれるほど従来の〈ネオレアリズモ〉を変えた作品であった。…
…1945年製作のイタリア映画。イタリア映画のルネサンスを告げるとともに,〈ネオレアリズモ〉の記念碑的な第1作として知られるロベルト・ロッセリーニ監督のレジスタンス映画の名作。そもそもはナチス占領下のローマでレジスタンス運動に挺身し,ドイツ軍に捕えられて銃殺されたドン・モロシーニ神父の記録映画が出発点であったが,レジスタンスの闘士をまじえた討論からシナリオをふくらませ(なお,セルジオ・アミディとともにシナリオの執筆に参加した当時24歳のフェデリコ・フェリーニは,この作品から映画にかかわりはじめた),〈事実の再現〉に徹した劇映画をつくることになった。…
※「ロッセリーニ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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