フランス最古の武勲詩。作者不詳。最古のオックスフォード写本は1100年ごろアングロ・ノルマン方言で書かれている。10音綴(おんてつ)母音押韻詩4002行。フランク王シャルル(カール)大帝のスペイン遠征の史実(778)に基づいているが、その内容や背景ははるかに後代のものである。前半の内容は、遠征の帰路、大帝の甥(おい)で殿(しんがり)軍の指揮官ロランがロンスボーの峡谷でサラセン王マルシルの大軍に囲まれ壮烈な討ち死にをする「語り」である。この悲劇の背景には、義父ガヌロンGanelonを怒らせて裏切りへ走らせたり、本隊へ危急を告げる角笛(オリファン)を吹くようにとの親友オリビエOlivierの忠告に従わなかったロラン自身の思い上がりがあったりする。後半はシャルル大帝による復讐(ふくしゅう)である。大帝はマルシルの軍を破りサラゴスへ殺到し、そこへ救援のためやってきたバビロン大守バリガンとの、キリスト教圏とイスラム教圏の運命を賭(か)けた一騎打ちに神の加護により勝利を収め、裏切り者ガヌロンを処刑する。勇将ロランと知将オリビエの対照的な性格、自身の思い上がりの必然的結果ともいえるロランの死、シャルル大帝とバリガン大守との対決、などにみられるように、この作品の構成は学識や才能ある芸術家の均衡のとれた計算に基づいている。登場人物も生き生きと描かれ、ガヌロンは単なる卑劣な裏切り者ではなく、キリスト教圏の最高の指導者シャルル大帝の人間的な弱さにも触れている。17世紀フランス悲劇の傑作にも比すべき均整のとれた古典的作品である。
[鷲田哲夫]
『有永弘人訳『ロランの歌』(岩波文庫)』▽『佐藤輝夫訳『ローランの歌と平家物語』上下(1973・筑摩書房)』
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