ロート(その他表記)Joseph Roth

改訂新版 世界大百科事典 「ロート」の意味・わかりやすい解説

ロート
Joseph Roth
生没年:1894-1939

ユダヤ系オーストリアの作家。当時のオーストリア・ハンガリー二重帝国の東部国境に近い,ガリツィアのブロディー(現,ウクライナ領)のユダヤ人家庭に生まれる。高校卒業後ウィーンに出て,大学でドイツ文学を専攻,詩作も試みる。1916年兵役志願,東部戦線で軍務に服す。18年の末には首都に戻り,創刊されたばかりの《新しい日》に寄稿,ジャーナリストの道を歩み始める。祖国解体後はベルリンに移り,各種の新聞雑誌に寄稿,ことに25年からは《フランクフルト新聞》の特派員としてヨーロッパ各地を訪ね,感性豊かな文を同紙に寄せた。同時に創作にも手を染め,《果てしなき逃走》(1927)などの小説を書いた。旧約聖書ヨブ記》の現代版《ヨブ》(1930)と,祖国〈ドナウ帝国〉の没落を切々とつづる《ラデツキー行進曲》(1932)によって,小説家としての名も不朽のものにした。ナチス政権の成立とともに国外へ亡命,もっぱらパリに住み,失われた祖国を賛美する作品を書き,狂気の民族主義を断罪した。それらの作品に《カプチン派の納骨堂》(1938),《千二夜物語》(1939)などの名編がある。また《放浪のユダヤ人》(1927)や《反キリスト者》(1934)は超国民的なユダヤ人の立場から西欧社会を批判し,現代に跳梁する悪魔を糾弾したエッセー精神病に苦しむ妻を哀れみ,ナチスに併合された祖国オーストリアを憂いてしだいに酒におぼれ,39年5月亡命先のパリで44歳の短い生涯を閉じた。S.ツワイク夫妻との交友は有名。
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ロート
Henri Lhote
生没年:1903-91

フランスの民族学者,考古学者。パリ生れ。北アフリカ,とくにサハラ砂漠地域を専門とし,1929年以降延べ10万kmを踏査し,タッシリ・ナジェール,ホガールHoggar,アドラール・デジフォラスなどで多くの遺跡を発見した。とくにタッシリ・ナジェールのセファールSefarにおける膨大な岩面画の発見が注目される。主著《タッシリ岩面画の発見》(1958)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロート」の意味・わかりやすい解説

ロート(Joseph Roth)
ろーと
Joseph Roth
(1894―1939)

オーストリアの作家。旧オーストリア帝国の東部国境に近いガリチア州のブロディーのユダヤ人家庭に生まれる。地元の高校を卒業後、同化の途(みち)を目ざし、ウィーン大学に学ぶ。第一次世界大戦に参加ののち、ジャーナリストとしてたち、まもなく新興の世界都市ベルリンへ移って活躍、有名な『フランクフルト新聞』をはじめ種々の新聞雑誌に寄稿した。ヨーロッパ各地への取材旅行のかたわら創作にも手を染め、『サボイ・ホテル』(1924)、『果てしなき逃走』(1927)、『ヨブ――ある愚かな男の物語』(1930)など、故郷ガリチアのユダヤ人世界を舞台とする作品を書いて注目され、祖国ハプスブルク帝国の没落の歴史を描く長編『ラデツキー行進曲』(1932)によって作家としての名も不動のものにした。1933年ヒトラー政権が成立するや国外に亡命、もっぱらパリに住み、愛惜の念を込めていまはなき祖国を回想する作品を執筆、多民族国家の理念に殉ずる人物を創出して、民族主義を批判し、ナチスを断罪した。そうしたものに『カプチン派教会の納骨堂』(1938)、『千二夜物語』(1939)などの長編、『美の勝利』(1934)、『皇帝の胸像』(1934)などの短編がある。彼の作品はなによりもまず読み物としておもしろいが、その本質は絶望から発した過去の理想化であり、願望としての汎(はん)ヨーロッパ文化理念の詩的表現である。39年亡命先のパリで客死した。

[平田達治]

『柏原兵三訳『ラデツキー行進曲』(1967・筑摩書房)』


ロート(André Lhote)
ろーと
André Lhote
(1885―1962)

フランスの画家ボルドーに生まれる。同地の美術学校で彫刻を学び、のち絵画に転じて1908年パリに出た。初めゴーギャンやセザンヌに傾倒し、やがてキュビスムの運動に加わった。対象を独特の明確な形態と色面に分解し再構成する理論を樹立して、特徴的な画面をつくった。ネオ・キュビスムともよばれているが、あまりにも理論にこだわったため、作品の芸術的な創造性に欠けるきらいがある。アンデパンダンサロン・ドートンヌに出品、一時、日本の二科会の会員でもあった。教育者や美術評論家として才能を発揮し、モンパルナスに研究所を創設したほか、『絵画――魂と精神』(1934)、『風景画論』(1937)などの著作がある。パリに没。

[染谷 滋]


ロート(Eugen Roth)
ろーと
Eugen Roth
(1895―1976)

ドイツの詩人、小説家。ミュンヘンに生まれる。ジャーナリストとして活躍したのち、『人さまざま』(1935)、『人とひとでなし』(1948)など人間の愚かしさ、弱さを、風刺を込めて快活に謳(うた)い上げた一連の作品によって、ミリオンセラーの詩人となった。詩集『歴史上の女たち』(1936)、『名医やぶい竹庵(ちくあん)先生』(1939)、『ロートの動物生態学』(1948~49)でも、機知と風刺の効いたユーモラスな、戯画の世界を展開している。

[幅 健志]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロート」の意味・わかりやすい解説

ロート
Roth, Alfred

[生]1903.5.21. ベルン
[没]1998.10.20. チューリヒ
スイスの建築家。 1926年チューリヒ工科大学卒業,K.モーザーの事務所に入り,のちパリのル・コルビュジエのもとで修業 (1927~28) ,スウェーデンに赴き (1928~30) ,1930年チューリヒに事業所を開設。初期の代表作は M.ブロイアー,いとこのエミール・ロートと共同設計のチューリヒ近郊のドルダータール・アパート (1934~36) 。雑誌"Werk"を編集 (1943~56) ,また 1949年以降ワシントン大学その他の講師も務めている。主著には『新建築』 Die neue Architektur (1939) や『新しい学校建築』 Das neue Schulhaus (1966) などがある。

ロート
Roth, Joseph

[生]1894.9.2. ガリシア,ブロディ
[没]1939.5.27. パリ
オーストリアの小説家,評論家。ウィーン大学で哲学,ドイツ文学を学んだのち第1次世界大戦に従軍。復員後,ウィーン,ベルリンでジャーナリストとなり,のちには『フランクフルト新聞』特派員となってヨーロッパの各地から寄稿。ユダヤ人であったため,1933年ヒトラー政権成立後亡命。各地を転々としたのち,パリのホテルに居を定めて執筆活動を続けた。失われたよき時代とふるさとを求めて,一生放浪のうちに終ったユニークな作家。主著,小説『はてしなき逃走』 Die Flucht ohne Ende (1927) ,『ラデツキー行進曲』 Radetzkymarsch (32) ,随筆『放浪のユダヤ人』 Juden auf der Wanderschaft (27) 。

ロート
Lhote, André

[生]1885.7.5. ボルドー
[没]1962.1.24. パリ
フランスの画家,美術批評家。生地の美術学校で装飾彫刻を学んだが,絵は独学。初めフォービスムの影響を受けたがセザンヌ,ピカソへの関心からキュビスムに接近した。しかし純粋なキュビスムには共感しえず,自然の形態を通して造形的要素を発展させた。美術批評家としても多くの著作を刊行。また,1922年モンパルナスに学校を開設して若い画家の指導にあたった。一時日本の二科会の会員となったこともある。主要作品『ラグビー』 (1917,パリ国立近代美術館) ,主著『風景画論』 Traité du paysage (39) 。

ロート
Roth, Eugen

[生]1895.1.24. ミュンヘン
[没]1976.4.28. ミュンヘン
ドイツの詩人,作家。ユーモアと風刺を特徴とする。詩集『人間』 Ein Mensch (1935) ,『最後の人間』 Der letzte Mensch (64) など。

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百科事典マイペディア 「ロート」の意味・わかりやすい解説

ロート

オーストリアのユダヤ系作家。ガリツィアに生まれ,ジャーナリストとして活躍しながら創作。ナチス政権成立後,亡命地パリで貧窮のうちに死ぬ。《果てなき逃走》(1927年),オーストリア帝国没落へのオマージュ《ラデツキー行進曲》(1932年)その他の長編や《酔いどれ聖伝》(1939年,邦題《聖なる酔っぱらいの伝説》)などの短編でユニークな物語作家として知られる。《放浪のユダヤ人》(1927年)や《反キリスト者》(1934年)など文明批判のエッセーもある。

ロート

フランスの画家。ボルドー生れ。初め彫刻を学んだが,1906年ころ絵画に転向し,キュビスムに参加。美術評論家としても活躍し,また研究所を設立して若手の指導にあたった。多くの著述があるが,《風景画論》(1937年)が代表作。
→関連項目カルティエ・ブレッソン

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