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『旧約聖書』のなかの代表的な知恵文学の一書で、紀元前5世紀ごろのパレスチナにおいて完成された。著者は豊かな人生経験、国際的見識、高度な文学的表現技法と雄大な詩的構想力をもった無名の詩人である。「ヨブ記」の構成は次の三部分からなっている。プロローグ(1~2章)、詩文による三友人との弁論(3~42章6節)、エピローグ(42章7~27節)。この序章と終章の散文部分の原型は、パレスチナ周辺に伝えられていた「ヨブ聖徒伝説」に求められる。それは、義人ヨブの「信仰の証明試験」としての人生における苦悩の克服と、祝福の物語であった。「ヨブ記」の詩人はそこに自身の体験的共感を発見し、後世に残る偉大な文学を完成した。そこで、人生の苦しみがなにゆえに人間を崩壊させるのか、と神の正しさ(神義論)を問う。御利益(ごりやく)本位の信仰と硬直化した因果応報の教理の神から解放されて、「生ける全能なる神」への信仰の転換は、詩人が自らの経験によって到達したところの答えであった。
[吉田 泰]
『関根正雄訳『ヨブ記』(岩波文庫)』▽『浅野順一著『ヨブ記――その今日への意義』(岩波新書)』
旧約聖書中のいわゆる〈諸書〉に属する一書。内容から見ると知恵文学の後期に属するが,その成立の正確な年代はわからない。しかし知恵文学の通常の見方である因果応報の原理が現実に合わないことがしだいにはっきりし,イスラエルの歴史も隆盛期を過ぎて,その点からも懐疑的な気持ちが一般的となった時代の作品であることは明らかである。義人ヨブに試練として下った苦難というモティーフはきわめて旧約的であるが,その問題解決は本書のわくをなす散文の部分(1:1~2:13,42:7~17)と,本論というべきこのわくにはさまれた詩文の部分で異なることは注意して読めばすぐわかる。散文の部分がより古いものであることは諸説の一致するところである。本論の解釈については種々の説があるが,19章の贖い主の発見はヨブの側からの問題追求の頂点である。しかし全体としては38章1節~42章6節に《ヨブ記》の結論があろう。
執筆者:関根 正雄
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…旧約聖書の《箴言》《ヨブ記》《伝道の書》,外典に属する《ベン・シラの知恵》《ソロモンの知恵》等を,歴史書,預言文学と区別して〈知恵文学〉と総称する。これらの知恵文学には,特にイスラエル的な信仰を特徴づける主題である排他的な唯一神の信仰,歴史の中に神の行為を実現する救済史観,イスラエルの選び,啓示,契約などが見られない。…
…旧約聖書の《ヨブ記》の主人公。過酷な試練に耐え,信仰を堅持した人物として知られる。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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