1381年に起こった中世イギリスの代表的農民一揆。異常気象による1315-17年の凶作と大飢饉,1348-50年以来のペストの反復流行により人口が激減した。また,農民逃散,労働力不足,賃金と手工業製品価格の騰貴,地代低下などが起こった。領主層はこれらに対処するため51年以降繰り返し議会で労働者規制法を制定し,物価規制,農業労働者の移動制限,農村住民への農業就労強制,領主の農業労働者優先雇用,賃金規制などを定め,実施のために労働者判事(1351),ついでこれに代わる治安判事(1361)の制度を設けて農業労働者,大農経営を圧迫した。一方,百年戦争により軍事費が増加したため租税負担が増大した。77年議会は14歳以上の全人口を対象に1人当り4ペンスの人頭税を新設し,79,80年と免税年齢,税率を変えて再三実施し,とくに80年のそれは重税であった(従来の直接税は財産税,定額税であったのに対し,新税は貧富に無関係の大衆課税)。脱税者が多く,政府は翌81年に調査を行った。同年5月脱税調査への実力抵抗が首都ロンドン北方で始まる。6月一揆は拡大し,元兵士タイラーWat Tyler(?-1381)とJ.ボールが指導者となる。6月13日一揆軍はロンドンを占領,翌日市北東部マイル・エンドで王と会見し,農奴制廃止,商品売買の自由,1エーカー当り4ペンスの地代,大赦を要求した。15日市内スミスフィールドで別の集団が王と会見し,領主制,農奴制,諸法制,司教制の廃止と教会財産の分配を要求した。この直後その場でタイラーは殺害され,一揆は瓦解した。遅れて東部一帯に一揆が広がったが,散発的であった。
執筆者:城戸 毅
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1381年、イギリスで起こった農民一揆(いっき)。指導者ワット・タイラーWat Tyler(?―1381)にちなんでこの名がある。反乱はまず同年5月にケントで発生し、反徒はタイラーを指導者に選ぶと、6月13日にはロンドンに進入した。また、イースト・アングリア地方でも、修道院所領を中心に農民が荘園(しょうえん)領主の居館を襲うなど、騒乱は各地に広がった。国王リチャード2世は同月14日マイル・エンドで反徒が要求した項目の一部を承認したので、帰郷した部隊もあったが、ケント勢は武装を解かず、15日スミスフィールドで再度王と交渉した。この会見のさなかに、市長ウォルワースは、短剣を手に王の身近に迫るタイラーを見て斬りかかり、頭と首に重傷を負わせた。王が反徒に再会を約してロンドンに帰る間に病院に運ばれたタイラーは、市長によってふたたびスミスフィールドに連れ戻され、そこで首をはねられた。指導者を失った反乱軍は壊滅状態となり、やがて鎮圧された。
反乱の原因は、直接には百年戦争の戦費調達のため賦課された人頭税にあるが、提出された「綱領」には、農奴身分の廃止、地代の減額、売買の自由などの要求項目が掲げられ、またこの反乱に思想的な影響を与えたジョン・ボールには、原始キリスト教への復帰を目ざす宗教改革の志向が認められるなど、反体制的運動の性格が強い。参加者も農民に限らず、都市の手工業者が主力をなした地域もあった。
[松垣 裕]
『ヒルトン・フェイガン著、田中浩・武居良明訳『イギリス農民戦争――1381年農民一揆』(1961・未来社)』
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… 第2には,個別領主に対する要求の域を越え,国家の租税や軍隊の徴発などに反対する一揆であり,農民反乱の名で呼ばれるような大規模な蜂起には,この型のものが多い。ジャックリーの乱(1358)やワット・タイラーの乱(1381)も,その背景には領主と農民の基本的対抗関係があるものの,直接のきっかけとなったのは,百年戦争に対処するためのイギリス,フランス両王の租税増徴策であった。近世の絶対王政期には,この傾向はいっそう強まり,17世紀のフランスに頻発した民衆蜂起はその多くが反王税一揆であった。…
…イギリスの放浪説教者,思想家でワット・タイラーの乱の組織者。反乱までの経歴は詳しくわかっていないが,北イギリスの修道院から南下し,農民の間で聖俗貴族を批判,平等主義,共産主義,階級の撤廃を説き,1360年代に破門された。…
※「ワットタイラーの乱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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