ワット(読み)わっと(英語表記)watt

翻訳|watt

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワット」の意味・わかりやすい解説

ワット(James Watt)
わっと
James Watt
(1736―1819)

イギリスの機械技術者。蒸気機関の発明にもっとも大きな貢献をした人。スコットランドグラスゴーに近い港町グリーノックに、船大工の子として生まれる。少年時代から手細工を好み、20歳前後にロンドンで器械工の徒弟となった。1757年グラスゴー大学の器械工となり、大学構内仕事場をもった。1763年、物理学教授アンダーソンJohn Anderson(1726―1796)からニューコメン大気圧機関の修理を依頼されたとき、この機関の熱効率が低いことに気づき、シリンダーコンデンサー(復水器)を分離する着想を得た。潜熱の発見者で同大学教授のJ・ブラックの教え子J・ローバックの経済的援助を得て研究を進めたが、ピストンのパッキングの問題にぶつかって開発ははかどらなかった。このこともあり、ワットは1767年スコットランドの運河測量士となり(~1774年まで)、その用務でロンドンに旅行し、1768年にはバーミンガムの工場主M・ボールトンに会った。彼は、ワットのかけがえのないパートナーになる。

 1769年ワットはローバックの援助により、復水器をシリンダーから分離した蒸気機関に関する最初の特許を得た。1773年援助者のローバックが破産したが、かわってボールトンが協力を申し出て、1774年にはワット機関の特許権を得、翌1775年にはワットの特許権を25年間延長することに成功、バーミンガムに工場を経営するボールトン‐ワット商会の創業となった。1775年鉄器製造業者のウィルキンソンが大砲の砲身をくりぬく中ぐり盤を発明、これにより精確な蒸気機関用シリンダーが初めて製造可能になり、以後20年間、シリンダーはすべてウィルキンソンに注文されることになった。ボールトンとワットが製作した最初の機関はウィルキンソンの溶鉱炉の送風のためのものであった。この機関の成功によりコーンウォールの炭坑にワット機関が採用された。

 ボールトンは、ワットに万能的原動機として広い用途をもつ回転運動の機関の開発を要求した。ワットは、初めクランク軸と連接棒で機関から回転運動を取り出すというアイデアを得たが、それに関する特許は他人に取られてしまっていた。ところが彼の有能な助手W・マードックの暗示から、太陽歯車遊星歯車の伝導機構を発明し、1781年に特許を得た。この伝導機構は1794年にクランク軸と連接棒の特許が満期になるまで採用された。1782年には同じ容積のシリンダーから2倍の動力を得る複動機関と、蒸気の膨張を利用する二つの重要な特許を得た。1784年にはパンタグラフの原理を使う平行運動機構を、1787年には負荷が変化しても速さを一定に保つ遠心調速機を発明し、これらの新機軸を取り付けることによって、複動回転蒸気機関を完成させた。1800年に彼の主特許である独立復水器の期限が満了になったが、その時までそれはそのままつくり続けられ、複動回転蒸気機関は最初に作業機の現れた繊維工場で急速に普及した。

 なお、ボイラーの煤煙(ばいえん)防止装置(1785)、圧力計(1750)などを発明し、「馬力」の単位による動力の測定も行った。仕事率の単位「ワット」は彼の名にちなんでいる。

 1794年、パートナーのボールトンのほかに、息子を加えて新しい企業を設立し、しだいに息子たちに事業を譲っていった。1795年、ソホに鋳物工場を設立してワット機関の大量生産に着手したが、息子たちは原価計算制と能率給を会社経営に導入した。1800年、主特許の期限が切れ、ボールトンとの共同事業も終わり、ワットも経営から身を引いた。

 その後、余生を楽しみながら、彫刻を複製する機械などを考案した。そしてバーミンガム郊外のヒースフィールドの邸宅で83歳の生涯を閉じた。彼の小さな屋根裏部屋の仕事場は、現在、ロンドン科学博物館に、蒸気機関とともに保存されている。

[山崎俊雄]

『ディッキンソン著、原光雄訳『ジェームズ・ワット』(1941・創元社)』


ワット(工率および電力の単位)
わっと
watt

仕事率、工率、電力および放射束を表す国際単位系(SI)の組立単位であり、固有の名称と記号で表される。記号はW。工率としては、1秒間に1ジュールの仕事をする割合である。電力としては、1アンペアの不変電流によって1秒間に消費される電力をいう。放射束は、ある面を、たとえば1秒間にどれだけのエネルギーが通過していくかという放射量をいう。名称はイギリスの機械技術者ジェームス・ワットにちなむ。

[小泉袈裟勝・今井秀孝 2015年4月17日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワット」の意味・わかりやすい解説

ワット
Watt, James

[生]1736.1.19. グリーノック
[没]1819.8.25/19. ヒースフィールド
スコットランドの技術者。 1755年ロンドンに出て機械工となるが,成功せず,帰郷。グラスゴー大学で器具製作者として構内で開業。大学からニューコメンの大気圧機関の模型の修理を依頼されたことから,蒸気機関の改良に専念することになり,火力機関の蒸気と燃料の消費を軽減させる分離凝縮器を発明,69年特許を取った。 75年バーミンガムに移り,M.ボールトンと共同で蒸気機関製造会社を設立し,蒸気機関の改良研究を続けた。 81年に往復運動を回転運動に変える遊星歯車装置の特許を取り,さらに膨張作動法,複動機関の特許を取った (1782) 。その後も平行運動機構 (84) ,遠心調速機 (88) と,次々と改良を重ね,蒸気機関の性能・用途を飛躍的に拡大させることによって,炭鉱の町コーンウォールを中心とするイギリス産業革命の一大推進力となった。彼の研究は専門科学の訓練を受けていなかったとはいえ,当時の熱学の最高水準の知識に裏づけられたすぐれたものであった。馬力という単位はワット機関の使用料を決めるために彼が創設したものである。

ワット
watt

仕事率電力放射束の SI組立単位。記号はW。 1Wは1秒間に 1Jの仕事をする仕事率,または電位差 1Vのもとで 1Aの電流が1秒間に運ぶ電力。また1秒間にある面を通過する 1Jの放射エネルギーつまり放射束でもある。単位名は J.ワットの名にちなむ。

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