アヤメ科アヤメ属Irisの植物で,北半球に分布し,約200種に及び,根茎または球根を有する多年草。アイリスと呼ばれて栽培しているものには,野生種と園芸グループがある。アイリスは園芸上,球根アイリスと根茎アイリスとに大きく2分類される。
(1)球根アイリス群 球根アイリス群の代表種ダッチ・アイリスI.hollandica Hort.(英名Dutch iris)は1900年代初期にオランダでスパニッシュ・アイリスI.xiphium L.(英名Spanish iris)に他の種を交雑して作られ,切花は世界で需要が多い。日本では単に〈アイリス〉と呼ばれることもある。鱗茎から長さ50cmくらいの剣状の葉を出し,1~2花を3月下旬から5月中旬につける。花色は白色,黄色,青色,紫色で,ウェジウッド(淡青)など約25品種ある。フランス南部,イベリア半島,北アフリカ原産のスパニッシュ・アイリスやピレネー山脈原産のイングリッシュ・アイリスI.xiphioides Ehrh.(英名English iris)は,それぞれ他種の混じらないいくつかの花色の品種があったが,ダッチ・アイリスの普及で栽培が衰えた。また小型の球根アイリスも各種あるが,そのうち小アジア,カフカスやイラン原産のイリス・レティクラタI.reticulata Bieb.は高さ10cmくらいで2~3月に直径4cmくらいの紫色や青色の花をつけ,約10品種ある。
(2)ビアディッド・アイリスbearded iris群 根茎が発達し,外花被片にひげ状の突起のあるビアディッド・アイリスのうち高さ70cm以上の高性のものが通称ジャーマン・アイリス(英名German iris)と呼ばれる。英米ではトール・ビアディッド・アイリスと呼ばれ,欧米で広く庭植えされ,最も改良の進んだ花である。根茎は太く,葉は広い剣状で,内花被片は大きく発達し,直径20cmに近い花を1茎に8輪ほどもつけ,白色,黄色,ピンク色,茶色,赤色,紫色,黒色など花色も豊富で,5月に開花する。品種は膨大で毎年300以上が作出されている。ジャーマン・アイリスはイリス・パリダI.pallida Lam.とイリス・ウァリエガタI.variegata L.の交雑種に地中海沿岸産の四倍体の種が複雑に交雑され,1900年代初期に基礎の品種が作られ,以後アメリカで目覚ましく改良されたものである。丈がやや低く,ジャーマン・アイリスの名のもととなったドイツアヤメI.germanica L.(英名German iris)も起源不明の雑種である。ビアディッド・アイリス群に属する野生種は約40種あり,園芸上40cm以下をドワーフdwarfと呼び,ナンキンアヤメI.pumila L.もこの群に含まれる。
(3)ビアドレス・アイリス群(外花被片にひげ状突起のないもの) (a)ルイジアナ・アイリス類Louisiana irises アメリカのミシシッピ川流域に自生するチャショウブI.fulva Ker-Gawl.(英名copper iris)など5種とそれらの天然交雑種や多数の園芸品種があり,花色が豊富で,花はカキツバタやハナショウブに似る。(b)シベリアン・アイリス類Siberian iris ヨーロッパ原産のコアヤメI.sibirica L.,アヤメI.sanguinea Donn.やこの2種の交雑種からなり,1900年代前期までに約150品種あり,以後,著しく花形が改良され,花色も青紫色,白色などのほかに今までなかった桃色,黄色などの品種も育成され,英米で広く庭植えされている。
ほかにアメリカの太平洋岸の山麓に産する11種とその交雑種からなるカリフォルニア・アイリス類California irisや,ヨーロッパ,小アジアや中央アジアなどに産す16種とその交雑種からなるスプリア・アイリス類Spuria irisなどがある。
また別に,肥大した地下茎のある球根と,花被片にまばらなひげ状突起をもち,中央アジアに産すレゲリア類Regeliaと東部地中海沿岸諸国に産するオンコキクルス類Oncocyclusがある。これらには多くの野生種があるが,そのうちイリス・スシアナI.susiana L.はよく知られ,その花が黒色のためmourning irisの英名がある。
アイリスの栽培の歴史は古く,前2500年ころから始まったと推定できる。これは,スフィンクスの額などや王たちの墓の浮彫にもアイリスの紋様が見られるからである。
第2次大戦後,多くのアヤメ属の植物が導入されたため,和名はつけられずに,野生種は学名のままで呼ばれるようになった。
アイリス類の繁殖は分球,株分け,実生。球根アイリスは,10月に排水のよい壌土に球根の2倍の深さに植える。ジャーマン・アイリスは乾燥地に適し,根茎の背が出るように浅植えし,灌水は不要。
執筆者:堀中 明
アイリスの花はルイ7世(在位1137-80)以降フルール・ド・リスfleur-de-lisとしてフランス国章になったが,これはフランク王国のクロービス1世Clovis Ⅰがケルン近くでゴート人に追いつめられた際,ライン川の河床にこの花が咲いているのを見て浅瀬の場所を知り,危うく全滅を免れた故事によるという。また英名はギリシア神話中のにじの女神イリスに由来し,ゼウスとヘラの使者として天と地にかけたにじから地上へ下ってこの花に姿を変えたといわれる。ゆえに花言葉は〈使命〉。
執筆者:荒俣 宏
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アヤメ科(APG分類:アヤメ科)イリス属の総称。単にアイリスとよぶ場合、園芸的に栽培する種の総称をさすことが多い。イリスはギリシア語で虹(にじ)を意味し、虹のように美しい花からつけられた。本属は北半球の温帯、北緯20~60度に分布し、アジア、ヨーロッパ、北アフリカ、北アメリカに広く生育し、230種から300種余が知られている。日本にはノハナショウブ、アヤメ、カキツバタ、シャガ、ヒメシャガ、エヒメアヤメ、ヒオウギアヤメ、ヒオウギの8種が自生する。形態は変化に富むが、花形はアヤメ形といわれ、3枚の外側の花弁(外花被(かひ))およびそれより小さい内側の3枚の花弁(内花被)と、3裂した花柱(雌しべ)および下部に各1個ずつの葯(やく)(雄しべ)からなる。花色は紫青色系が多いが、白、黄、赤褐色、茶褐色、黒紫色などもある。純粋の緋紅(ひこう)色系はアメリカ中部に自生するフルバ(チャショウブ)I. fulvaがやや近いが、原種にはこの色系統のものはないとされる。
宿根多年生のものが多いが、秋植え球根性のものもある。一般に耐寒性が強く、湿地を好むもの、乾燥地を好むものなど性質に変化がある。湿地好みのものは高性型が多く、茎葉が雄大である。乾燥地好みのものは矮性(わいせい)で茎葉も短いものが多い。大別して鱗茎(りんけい)種と根茎種に分ける。鱗茎種は球根アイリスともいい、休眠中は根がないのが特徴で、ダッチ・アイリス、イングリッシュ・アイリス、スパニッシュ・アイリス、レティキュラータ・アイリスなどの品種がある。根茎種は代表的なものにジャーマン・アイリス、ハナショウブ、アヤメ、カキツバタ、キショウブ、シャガ、イチハツ、ルイジアナなど多くの種類があり、さらに下弁の基部近くにひげのあるものを別系統に細分する説もある。これらのほかに、球根性を呈しながら根茎のもの、多肉質の根茎をもつものなど、2~3種が知られる。
[川畑寅三郎 2019年5月21日]
鱗茎種の代表種であるダッチ・アイリスDutch iris/I. × hollandica Hort. ex Todd.はオランダアヤメともいう。地中海沿岸地方原産の数種をオランダで交雑育種したもの。普通秋から出葉する耐寒種であるが、零下10℃以下では枯死する。代表的品種にホワイト・ウェッジウッド、イエロー・クイン、アイデアル、ブルー・リボン、ナショナル・ベルベットなどがある。球根は、6月中・下旬に葉が半枯れになったときに掘り上げ、風通しのよい日陰に乾かして貯蔵し、10月に植える。繁殖は分球による。球根の大きさにもよるが7~8センチメートル球では5センチメートル平方に1球ずつ植え、覆土は球根が隠れる程度にする。肥料は多めに基肥として施す。
根茎種の代表種であるジャーマン・アイリスGerman iris/I. germanica L.はドイツアヤメともいう。ヨーロッパ原産の数種が交雑育種され、多くの品種がつくられ、さらにアメリカで改良された優れた品種が多い。レインボー・フラワーといわれるほどで、花色の変化に富む。また、花弁が横に張る品種や芳香も放つ品種など、育種技術の粋を凝らしたものが多い。栽培はダッチ・アイリス同様であるが、日当り、排水ともよい乾燥地に適し、生育がよければ2~3年は植えかえをしなくても優れた花をつける。ともに切り花、鉢植え、花壇、庭園、ロック・ガーデンなどに広く用いられ、端午(たんご)の節供の季節花としても愛用される。白絹(しらきぬ)病や軟腐(なんぷ)病に弱いのが難点で、これを防ぐことが、優秀な花を咲かせるポイント。
[川畑寅三郎 2019年5月21日]
エジプト王トゥトメス3世が紀元前15世紀にシリアから持ち帰ったといわれるアイリスは、栽培の歴史が古く、古代ギリシアやローマでは香水に使われた。中世のヨーロッパではフロレンティーナ(和名ニオイイリス)I. florentina L.の乾燥した根(オリス根)が、病気除(よ)けの首飾りにされて大流行した。またアイリスを紋章化したフルール・ド・リスは、5世紀にクロービス王が使って以来、19世紀までフランス王家の紋章であった。なお、これを字義通りユリとする説もある。
[湯浅浩史 2019年5月21日]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…映画評論家H.A.ポタムキンは,《シアター・ギルド》誌(1930)で,メリー・ピックフォード主演《網を繕う人》(1912)でグリフィスが初めてクローズアップを〈芸術的に〉使ったと指摘しているが,1908年から16年間グリフィスに協力したカメラマン,ビリー・ビッツァー(1872‐1944)の自伝的回顧録《ビリー・ビッツァー,ヒズ・ストーリー》(1973)によると,グリフィスの《イノック・アーデン》(1911)で,ロングとフルサイズを主体にした当時の映画の描写の中に,決定的な1点を瞬間的にとらえて挿入することによって他のすべてを省略する劇的なクローズアップを使ったことになっている。と同時に,例えばバストサイズでとらえられた人間の顔だけを円で囲んでその表情だけを浮き上がらせたり,双眼鏡でのぞいて見たロングの風景の一部を,双眼の形に囲んでそのようすを浮彫にするといった〈アイリス〉の技法にもクローズアップと同じ志向が見られた。いずれにしても,クローズアップを〈モンタージュ〉の一環として使い,映画を空間的束縛から解放したという意味では,グリフィスこそ真のクローズアップの創始者ということができる。…
…シベリア,中国東北部,朝鮮,日本に産し,日本では各地の山間の草地に生えるアヤメ科の多年草(イラスト)。紫色の風情のある花のため,庭植えもされる。茎は高さ30~60cm。葉は先が垂れるために短く見えるが,茎とほぼ同長であり,また二つにおりたたまれて表面がくっつきあったため,両面とももともとは裏だった面からなる単面葉で,幅約1cmの線形剣状である。和名は葉が2列に並んだ様子の文目(あやめ)の意味から,あるいは花の外花被の基部に綾になった目をもつことから名付けられたという。…
…シベリア,中国東北部,朝鮮,日本に産し,日本では各地の山間の草地に生えるアヤメ科の多年草(イラスト)。紫色の風情のある花のため,庭植えもされる。茎は高さ30~60cm。葉は先が垂れるために短く見えるが,茎とほぼ同長であり,また二つにおりたたまれて表面がくっつきあったため,両面とももともとは裏だった面からなる単面葉で,幅約1cmの線形剣状である。和名は葉が2列に並んだ様子の文目(あやめ)の意味から,あるいは花の外花被の基部に綾になった目をもつことから名付けられたという。…
…【矢原 徹一】。。…
※「アイリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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