イチハツ(英語表記)roof iris
Iris tectorum Maxim.

改訂新版 世界大百科事典 「イチハツ」の意味・わかりやすい解説

イチハツ
roof iris
Iris tectorum Maxim.

中国中部から北ミャンマーにかけての地域が原産アヤメ科多年草。日本のアヤメ類では早く,5月に開花するので,〈最初に咲く〉の意でイチハツと呼ばれるようになったといわれる。また大風を防ぐといわれ,わら屋根に植えられることも多かった。英名も〈屋根に生えるアイリス〉と,イチハツの特徴的な生育場所から名付けられている。日本には古くに中国から渡来したと考えられ,少なくとも18世紀初めには栽植されていた。江戸時代にはコヤスグサと呼ばれていた。白花品種や斑入葉を除けば,園芸品種はほとんど分化していない。またアヤメ属植物なかでは乾燥に強い種であり,じょうぶである。
アヤメ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イチハツ」の意味・わかりやすい解説

イチハツ
いちはつ
[学] Iris tectorum Maxim.

アヤメ科(APG分類:アヤメ科)の多年草。中国内陸部の原産で江戸時代から栽培されていた。根茎は太く、短く、叢生(そうせい)する。葉は淡緑色で先は鋭くとがり、長さ30~60センチメートル、幅2.5~3.5センチメートル、平滑で中央脈は不明瞭(ふめいりょう)、基部で扇状に開く。4~5月に花茎を30センチメートルくらいに伸ばし1~2枝を出し、各枝に2~3花をつける。小包葉は倒卵状長楕円(ちょうだえん)形で膜質。小花柄はほとんどない。花は紫点があり、径約10センチメートル、花筒は長さ2.5センチメートル。外花被片(かひへん)は倒卵形で、中央部から以下は内面紫斑(しはん)のある鶏冠状の白色肉質突起を密生する。内花被片はほぼ同大で斜めに開く。白花と斑入葉(ふいりは)種がある。耐寒性、耐乾性ともに強く、地表あるいは浅土中に細い多数の地下茎を伸ばして繁殖する。昔は藁葺(わらぶ)き屋根に植えた。日なたでも半日陰でも育つが、半日陰で美しい。

[吉江清朗 2019年5月21日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イチハツ」の意味・わかりやすい解説

イチハツ(鳶尾)
イチハツ
Iris tectorum

アヤメ科の多年草。中国原産で,日本には古くから渡来した。観賞用に水はけのよいところなどに植えられ,また,しばしば農家のわらぶき屋根の上に植えられた。葉は幅広く3~4cmになり,先端は剣状で脈が多少隆起する。淡緑色で光沢がある。花はアヤメより早く5月に咲く。イチハツの名は,この類のものとして最初に咲くことからつけられたという。花の直径は 10cmぐらい,3枚の外花被片は広い円形で紫色に濃色の斑点がある。また中央の基部のほうに白色の鶏冠状の突起があるのが特徴,内花被片も卵形に広がり基部は細まる。花の色は紫色であるが,白花のシロバナイチハツもある。根茎を乾かしたものが生薬の鳶尾根で,吐剤または下剤として用いられる。

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百科事典マイペディア 「イチハツ」の意味・わかりやすい解説

イチハツ

中国原産のアヤメ科の多年草。わらぶき屋根によく植えられている。茎は高さ30〜60cm,剣状の葉が下方に1列に並んでつく。5月に咲く淡紫色の花は,内花被片が大きく平開し,外花被片は濃紫色の斑点があり,下半部内面にとさか状の突起がある。じょうぶで栽培しやすい。株分けでふやす。

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世界大百科事典(旧版)内のイチハツの言及

【アヤメ】より

…【矢原 徹一】。。…

【アヤメ】より

…アメリカ原産の近縁のイリス・ウェルシコロルI.versicolor L.との交雑種が1968年に作られた。 イチハツI.tectorum Maxim.(英名roof iris)(イラスト)は中国の中央部から西部とミャンマー北部に産し,古く日本に渡来した。1563年(永禄6)の古文書に初めて書かれており,その後《花壇綱目》(1681)などいくつかの古い園芸書に〈一八〉や〈一初〉の名で見られる。…

【アヤメ】より

…アメリカ原産の近縁のイリス・ウェルシコロルI.versicolor L.との交雑種が1968年に作られた。 イチハツI.tectorum Maxim.(英名roof iris)(イラスト)は中国の中央部から西部とミャンマー北部に産し,古く日本に渡来した。1563年(永禄6)の古文書に初めて書かれており,その後《花壇綱目》(1681)などいくつかの古い園芸書に〈一八〉や〈一初〉の名で見られる。…

※「イチハツ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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