「メディア王」といわれるオーストラリア出身の経営者で、ニューズ・コーポレーションの会長兼CEO(最高経営責任者)。オーストラリアをはじめ、イギリス、アメリカ、インド、香港(ホンコン)などで数多くの新聞・雑誌を発行し、テレビ会社をもつマードック・ファミリーを組織する。メルボルンに生まれ、オックスフォード大学卒業後、ロンドンの『デーリー・エクスプレス』紙で働きながら新聞経営を学ぶ。新聞社主であった父から『アデレード・ニューズ』紙などの経営を引き継ぎ、やがてオーストラリア唯一の全国紙『オーストラリアン』などを買収、「マードック帝国」の地歩を固めた。1969年イギリスに進出し、『ニューズ・オブ・ザ・ワールド』『サン』紙などを買収、センセーショナリズムを売り物とする新聞づくりを行い、部数を拡大。1973年アメリカにも進出して、『ニューヨーク・ポスト』紙などを獲得(のちに売却、1993年度に再度買収)した。1980年にメディア複合企業「ニューズ・コーポレーション」を設立。1981年にはイギリスの『タイムズ』紙を買収、1983年にはシカゴの名門紙『サン・タイムズ』も買収した(のちに売却)。1986年5月、アメリカ三大TVネットワークに対抗する第四のネットワークFBC(フォックス・ブロードキャスティング・カンパニー)を設立。1992年には映画のフォックス社社長兼会長に就任した。また通信・衛星放送への進出も目覚ましく、ニューズ・コーポレーションは日本のCSデジタル放送の運営会社「ジェイ・スカイ・ビー(JスカイB)」(1998年パーフェクTVと合併、スカイパーフェクTVとなり、2008年スカパーJSATとなる)の主要株主でもあった。1996年には、ニューズ・コーポレーションがソフトバンクと折半でテレビ朝日株式5136株(発行済み株式総数の21.4%)を買収したことが、大きな話題をよんだ(翌1997年、同株をすべて朝日新聞社が買い戻した)。また2000年には全米10テレビ局を所有するクリス・クラフト・インダストリーズ社を買収、ニューヨーク、ロサンゼルスなど大市場でのテレビ局数を着実に増やした。2007年にはウォール・ストリート・ジャーナルを発行する金融情報会社、ダウ・ジョーンズ社を傘下に収めた。なお1997年には、アメリカ大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースを買収、のちに売却している。
[鈴木ケイ・伊藤高史]
『ジェローム・トッチリー著、仙名紀訳『マードック――世界制覇をめざすマスコミ王』(1990・ダイヤモンド社)』▽『アレックス・B・ブロック著、渡辺昭子訳『米国メディア戦争(ウォーズ)最前線――全米TV界制覇戦略』(1991・角川書店)』▽『桂敬一著『メディア王マードック上陸の衝撃』(1996・岩波書店)』▽『江戸雄介著『孫正義とマードックとJ・ヤンの野望――起業家の雄とメディア王の今後』(1996・本の森出版センター、コアラブックス発売)』▽『今井澂・山川清弘著『マードックの謎――世界のメディア王』(1998・東洋経済新報社)』▽『ウィリアム・ショークロス著、仙名紀訳『マードック――世界のメディアを支配する男』(1998・文芸春秋)』▽『スチュアート・クレイナー著、村山寿美子訳『マードック「直観」の法則――こうすればリスクが成功に変わる』(2000・PHP研究所)』▽『Michael LeapmanArrogant Aussie ; The Rupert Murdoch Story(1984, Lyle Stuart Inc., New Jersey)』
イギリスの女流小説家。ダブリン生まれ。オックスフォード大学を卒業後、母校の哲学講師を15年間務める。批評家ジョン・ベイリーJohn Bayley(1925―)は夫。評論『サルトル、ロマン主義的合理主義者』(1953)に次いで出た処女長編『網のなか』(1954)は、レーモン・クノーを思わせる知的な構成を軽やかな滑稽(こっけい)さとふくよかな叙情性を備えたどたばた喜劇で、読書界は喝采(かっさい)を送った。続いて『魅惑者からのがれて』(1956)、『砂の城』(1957)と、イギリス風俗小説と現代フランスの実存主義小説の融合したような味わいの作品を発表、人間関係の稠密(ちゅうみつ)な組合せの実験を行った。第四作『鐘』(1958)はそうした試みの頂点といえよう。
その後、作風は黒いユーモアやグロテスクな設定に傾き、『切られた首』(1961)、『一角獣』(1963)、『イタリア女』(1964)などのようなゴシック小説風の作品が多くなったが、『偶然にもてあそばれる男』(1971)では笑いと叙情性とが大きな哲学的な主題に結び付いた、本来の彼女の調子にふたたび戻った。その後も謎(なぞ)解きの要素をもつ『ブラック・プリンス』(1973)、シェークスピアの『あらし』を枠組みにした『海よ、海』(1978。ブッカー賞受賞)、『哲学者の弟子たち』(1983)など、ほとんど毎年一作を送り出し、しかも水準以上の問題をはらんだ作品を執筆し続ける現代イギリスでもっとも力ある作家であった。1997年、夫によってアルツハイマー病にかかった旨が宣言され、世界の読書界に衝撃を与えた。
[出淵 博]
『野中涼著『アイリス・マードック』(1971・研究社出版)』▽『蛭川久康著『アイリス・マードック――幻想の不毛から愛の豊饒へ』(1979・冬樹社)』
アメリカの人類学者。コネティカット州に生まれ、エール大学を1919年卒業。アメリカの文化人類学が著しい飛躍を遂げた第二次世界大戦後に、学界の指導者として果たした役割は大きい。その広範な理論的活動のなかでも、とりわけ名声を不動にしたものに、主著『社会構造』(1949)において展開された親族理論と核家族普遍説として有名な核家族の理論、および、のちに「人間関係地域ファイル」(Human Relations Area Files:HRAF(フラーフ))へと発展した通文化比較研究のシステムがあげられる。社会学、人類学、行動心理学などを総合した学際的な行動科学を構想していたが、この基本姿勢をもっとも忠実に反映しているのが先にあげた二つの業績であった。主著『社会構造』はHRAFに示される豊富な民族誌データのうえに統計的手法を駆使して展開された野心的な試みで、のちに多くの批判を集めはしたが、今日なお人類学史上類をみない労作と評価されている。
[濱本 満 2019年1月21日]
『内藤莞爾監訳『社会構造――核家族の社会人類学』(1978/新版・2001・新泉社)』
イギリスの機械技術者。スコットランドのオーキンレック付近で生まれる。1778年ソーホーのボールトン‐ワット商会に入り、1779年にはコーンウォールでワット機関の組立てを指導した。石炭ガスを照明に使うというフランスのルボンPhilippe Lebon(1767―1804)の研究を聞き、1792年レッドルースで石炭ガスの実験を始め、レトルト式の炉による石炭の乾留、ガスの洗浄などの装置を考案、1802年アミアンの和約を祝するためソーホー工場をガス灯で照明した。1806年レトルト・パイプ・バーナーを製作し、マンチェスターの工場に設置した。ワットと協力し、蒸気機関の改良にも優れた業績を残した。
[山崎俊雄]
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イギリスの女流小説家。ダブリン生れ。オックスフォード大学卒業後,ケンブリッジ大学で哲学を専攻。1948-63年,オックスフォード大学で哲学を教え,この間,評論家J.ベーリーと結婚。処女作はサルトルの哲学の唯我性を批判した《サルトル,ロマンティックな合理主義者》(1953)。処女小説《網の中》(1954)で認められ,その後,初期の《砂の城》(1957),《鐘》(1958)から《海よ,海》(1978),《尼僧たちと兵士たち》(1980)などに至るまで,力作長編をほぼ毎年,すでに20冊以上も発表しており,その多くが邦訳されている。現実は人間の望むようなこぢんまりした秩序で成り立つものではなく,人間はすべて不透明で,神秘的な,ほかのなにものにも還元できない独立の存在であるとする立場をとる。彼女の小説は,男女の愛,同性愛,近親相姦に至るあらゆる愛のテーマを中心に,複雑で巧みな構成の裏に一種哲学的,象徴的な思索を潜め,幻想的でありながら,きわめて濃密な現実感をもっている。1959年と67年の2度来日し,中世日本の宮廷を舞台とした戯曲《三つの矢》(1972)もある。
執筆者:鈴木 建三
アメリカの文化人類学者。コネティカット州に生まれる。1928年から60年までイェール大学で,その後はピッツバーグ大学で人類学の研究・教育に従事し,その間,数々の学会の要職を歴任した。人類学は人間の社会行動に関する科学として,社会学,行動心理学,精神分析学など隣接諸科学をふくむ総合的な見地から人間行動の普遍性を追究すべきだというのが彼の基本的な立脚点である。イェール大学で彼が発案した人間関係の通文化的調査の成果は,ヒューマン・リレーションズ・エリア・ファイルズ(略称HRAF,ハラフ)として現在もデータの蓄積が進行中である。著作としては《社会構造》(1949)がとくに有名で,親族組織の比較研究の開拓者として人類学史上多大な影響を及ぼした。
執筆者:松園 万亀雄
産業革命期のイギリスの技術者。水車大工の父の下で修業を積んだ後,1777年にバーミンガムのボールトン=ワット商会に入る。ちょうど排水用のワットエンジンが完成したころで,79年からは多数のワットエンジンが設置されていたコーンウォールにその保守,調整のために派遣された。98年バーミンガムに戻り,以後1830年まで指導的技術者として商会のソホー工場に勤めた。1792年ころから石炭や木の乾留ガスを用いたガス灯の実験に取り組み,1802年にはソホー工場にガス灯を設置,このガス灯による照明は後に工業的規模にまで発展した。このほか蒸気機関車の可能性をテストしたり,給水用の石パイプの設計をしたり,蒸気機関の改良をおこなった。
執筆者:高山 進
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(平川祐弘)
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…一貫した筋はなく,挿話の連続で,主人公の性格上の発展や精神的成長はない。18世紀に消滅していたと思われたピカレスク小説(悪者小説)の復活のように考えられるが,例えばI.マードックの《網の中》(1954)に見られるように,人間実存についての哲学的な思索が,一見支離滅裂な物語を深部で支えているなど,作者の知性が作品にあふれているあたりに,〈ネオ(新)〉という言葉が冠されている理由がある。20世紀心理小説が直面した行詰りを解決する一つの道として,行動性と滑稽と活力にあふれた小説が登場したのである。…
…歴史的には分裂や融合をくりかえしてきた。G.P.マードックはそれを文化史的立場から表のような10系統48群に分類した。 マードックはこの系統分類によって6000余りの部族を整理している。…
…夫婦とその未婚の子からなる家族。nuclear family(核家族)という語は,アメリカの文化人類学者G.P.マードックがその著書《社会構造論》(1949)で初めて用いた。彼は未開社会の家族の研究結果から,社会集団の基礎単位として普遍的に存在している〈核家族〉に注目した。…
…【伊谷 純一郎】
【人間の家族】
近親関係を中心に構成される最小の居住集団を〈家族〉とか〈世帯〉とかよんでいる。このような最小居住集団はかつては〈個別家族individual family〉〈基本家族elementary family〉などと名づけられていたが,最近では,G.P.マードックの提唱した〈核家族nuclear family〉の名称がひろく用いられている。ここではまず学問上,家族がどのように問題にされてきたかを概観し,以下では日本の場合を中心として家族観の変遷を述べ,さらに〈現代の家族〉について議論することとする。…
…しかしのちになるとイギリスで,〈クラン〉の語源となったスコットランド人の氏族が,単系出自集団でも外婚集団でもないことに発し,新しく〈セプトsept〉という用語がW.H.R.リバーズによって唱えられるようになる。またアメリカでもR.H.ローウィによって,用語・概念の混乱をさけるべく,母系氏族・父系氏族を総称して〈シブsib〉という用語を用いるよう提案がなされ,さらにローウィの提案をうけて,〈シブ〉や〈リネージ〉は単系出自集団であるが,〈クラン〉は配偶者を含む単系出自にもとづく集団で,かつまた地域的制約のある居住集団に対してあてるべきだ,というG.P.マードックの提案も登場した。しかし今日では,用語としては〈クラン〉が代表的であり,概念としては単系出自集団と規定する学者が少なくない。…
…しかも後者が,その血縁的紐帯を認めて,結婚した他氏族の異性の住地に移り住んだ成員をも,なお自己の氏族員として扱うようになれば,ここに単系的血縁原理を徹底せしめた氏族が生まれる。G.P.マードックはこのような〈純粋〉の氏族をシブsibとよび,単系的・外婚的な血縁集団の中核をなす男もしくは女の住地に移り住んだその配偶者をも成員に編入する氏族を,クランclanという語でこれと区別した。 また北東アジアの極地に半ば遊動の狩猟生活を営んでいたユカギール族も,かつては氏族とよばれる組織を最大の社会単位としていたが,彼らの氏族も共通の祖先から出たという血縁者の家族を中核として,これに同一地域に住むその他の家族を包括した。…
…他方,R.H.ローウィとキルヒホフPaul Kirchhoffは,それぞれ独自にモーガンの分類に1型を加え,世代型,双岐融合型,双岐傍系型,直系型の4分類とすることを提唱した。のちにG.P.マードックは《社会構造》(1949)のなかで,キョウダイおよび平行イトコ(父の兄弟の子ども,および母の姉妹の子ども),交叉イトコ(父の姉妹の子ども,および母の兄弟の子ども。いとこ婚)の類別様式に基づいて次の6類型を設定した。…
…今日ではそれぞれの規制を区別して考えることが通例であり,諸規制の集合としての広義の〈父系制〉という概念は,個別社会の事例に照らして,諸規制の相関を考慮したものでなければならないとされる。サンプルの採用基準および分析方法について多分に問題視されてはいるが,父系制の特徴や傾向を概略的に知るひとつのヒントとして,アメリカの人類学者G.P.マードックの相関表を掲げておく(表)。この表は相続形態と居住規制,相続形態と出自規制の2種の相関を統計的に表したものである。…
…(4)から(9)はそれぞれ1~7点が与えられる。以上の項目についてG.P.マードックの規定した233の文化より選び出した舞踊を調べ,日常の動作と舞踊の動きや異なる文化間の舞踊の動きの比較を行おうとしている。 舞踊研究はアメリカで近年盛んになり,カリフォルニア大学ロサンゼルス校やハワイ大学などに民族舞踊学の講座が置かれている。…
…ガスが燃焼して発する光を利用する灯火。コークス生産の副産物のガスを照明に利用する技術は,18世紀後半ベルギー人J.P.ミンケレルスやフランス人P.ルボンが開発したとする説もあるが,イギリスのボルトン=ワット商会の技師であったマードックWilliam Murdock(1754‐1839)によって実用化された。1792年に実験工場をつくった彼は,1802年にアミアン条約の締結を祝ってバーミンガムのソーホー工場をガス灯で照明して大評判となった。…
…ガスが燃焼して発する光を利用する灯火。コークス生産の副産物のガスを照明に利用する技術は,18世紀後半ベルギー人J.P.ミンケレルスやフランス人P.ルボンが開発したとする説もあるが,イギリスのボルトン=ワット商会の技師であったマードックWilliam Murdock(1754‐1839)によって実用化された。1792年に実験工場をつくった彼は,1802年にアミアン条約の締結を祝ってバーミンガムのソーホー工場をガス灯で照明して大評判となった。…
※「マードック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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