アシナガバチ(読み)あしながばち

改訂新版 世界大百科事典 「アシナガバチ」の意味・わかりやすい解説

アシナガバチ (脚長蜂)
paper wasp

膜翅目スズメバチ科アシナガバチ属Polistesに含まれる社会性カリウドバチの総称。働きバチが100匹以下の小さな群れをつくる。人里にも多くなじみ深いが,ときに皮膚を刺される被害が出る。体長10~25mm,体は細長く,黒色で各部に黄色や赤褐色の斑紋がある。女王バチと働きバチの形態差はない。寒帯や高山を除く全世界に広く分布し,百数十種。日本からは7種が知られている。人里でふつうに見られる種にフタモンアシナガバチP.chinensisセグロアシナガバチP.jadwigae,コアシナガバチP.snelleniがある。枯れた草木や木材の表面から集めた繊維で紙質の巣をつくり,木の枝や家の軒先に垂下する。完成した巣はハスの実の形かその変形で,100から数百個の六角形の育房からなる。巣はただ1本の支柱で支えられるため,主要な天敵の一つであるアリの侵入を防ぎやすい。支柱には腹部から分泌したアリ忌避物質を塗って,侵入防止の効果をいっそう高めている。温帯では1年性で,女王バチは春に冬眠からさめると,単独で巣をつくり子を育てる。夏に働きバチ(不妊の雌)が生まれると,女王は産卵を,働きバチは巣の建築採餌などの仕事を分担して,二つの階級の間に分業が成立する。晩夏に働きバチが羽化し終えると,引き続いて雄バチと新女王(各10~100匹)が生まれる。これらは自分の餌(花みつ)をとりに外出するが,巣づくりや子育ては行わない。旧女王と働きバチは晩秋までに死滅し巣は解散する。交尾後雄も死んで,受精した新女王のみ越冬する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アシナガバチ」の意味・わかりやすい解説

アシナガバチ
あしながばち / 脚長蜂

昆虫綱膜翅(まくし)目スズメバチ科のアシナガバチ属Polystesの種類の総称。すべてカリバチ(狩りバチ)で、体長10~25ミリメートル。体は、黒、褐色、黄色の縞(しま)模様に彩られている。日本には数種産するが、平地の人家付近で普通にみかけられるのはフタモンアシナガバチPolistes chinensisと、セグロアシナガバチP. jadwigaeである。前者はよく屋根瓦(がわら)の下の空間などに営巣し、人家の軒下に営巣するのは後者が多い。

 冬を越した母バチは、4月ごろ単独で、直接日光や雨にあたらない、風当りの少ない場所を選んで巣をつくり始める。巣は六角柱状の部屋を並列して下に向けて束ねた巣板で、古い木材の繊維を集めて唾液(だえき)で練ってつくられたものである。各室に1卵ずつ卵を産み、アオムシなどをかみつぶした食物を随時与えて育てる。初夏のころ最初の幼虫が成虫になるが、この新成虫は小形の卵巣が十分に発育していない雌で、働きバチとよばれる。働きバチが羽化し始めると、母バチは産卵と育仔(いくし)に専念するようになるが、そのころから盛夏にかけて巣は急速に大きくなる。巣の中の個体間には順位があって、母バチはつねに最上位を占め、働きバチのなかでは、一般に早期出現者が上位を占めるといわれている。初秋には、雄バチと、翌年まで生き残る雌バチとが現れて、巣は解散する。交尾を終えた雄バチはまもなく死亡するが、雌は冬季もそれほど温度の下がらない場所を選んで越冬する。

[桃井節也]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アシナガバチ」の意味・わかりやすい解説

アシナガバチ
Polistes

膜翅目スズメバチ科アシナガバチ属の昆虫の総称。黄褐色と黒色からなる模様をもつ中型のハチで,肢,特に後肢が長いのでこの名がある。雌はよく人畜を刺し,被害を及ぼす。体長 10~25mm。体はやや細く,翅はいずれも黄褐色を帯びている。家族性の狩人蜂の一つで,六角柱状の巣房からなる蜂巣型の巣をつくる。巣は風化した枝や板塀,家屋の外柱などから集めた靭皮繊維を唾液で練ったものを材料にし,灰黒色をしている。鱗翅目の幼虫など,特にアオムシを狩り,肉団子にして幼虫に与える。日本に数種いるが,フタモンアシナガバチ P.chinensisとセグロアシナガバチ P.jadwigaeは平地で普通にみられる。

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百科事典マイペディア 「アシナガバチ」の意味・わかりやすい解説

アシナガバチ

膜翅(まくし)目スズメバチ科中の一群の総称。飛行中に後肢を長く下方にたらすのでこの名がある。枯木などの繊維を唾液で練って紙質の巣をつくる。巣の形は種類によって異なる。社会生活をする。女王バチと働きバチの形態上の差はない。日本にはセグロアシナガバチなど10数種類がいる。巣は1年で放棄され再び使用されない。

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