日本大百科全書(ニッポニカ) 「アズレン」の意味・わかりやすい解説
アズレン
あずれん
azulene
非ベンゼン系芳香族化合物の一つ。5員環と7員環が縮合した構造をもち、濃青色の板状結晶。ナフタレンの異性体で、特有のにおいをもち、300℃に加熱するとナフタレンに異性化する。1863年ピエスGeorge William Septimus Piesse(1820―1882)が植物油中から青または紫色の液体を取り出しアズルazul(青)からアズレンと総称した。当時これらの物質の構造は不明で、1936年プラットナーPlacidus Andreas Plattner(1904―1975)により初めて骨格が合成され、母体の構造が確立した。その後の研究で植物油中から得たものはC10H8の骨格をもつ母体アズレンのアルキル誘導体であることが明らかにされた。水に不溶であるがリン酸に溶け、また多くの有機溶媒に溶ける。7員環が5員環に電子を供与する形でヒュッケル則を満たすことにより、芳香族性であることがわかる。そのため求電子試剤により電子密度の高い5員環の1、3位で置換反応をおこす。アズレンが非ベンゼン系芳香族化合物の研究に果たした役割は大きい。
[向井利夫]