アリエス(英語表記)Ariés, Philippe

  • 1914―1984
  • Philippe Ariès

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

[生]1914
[没]1984
フランスの歴史家。人間の態度変容に関して,心性史,社会史視点から研究を進めた。晩年に社会科学研究学院の教授になるまで熱帯農産物を扱う機関に勤務し,「日曜歴史家」として過ごす。代表的著作は『「子供」の誕生 アンシャン・レジーム期の子供と家族生活』 (1960) で,「幸福な存在としての子供」は,18世紀のヨーロッパで生れた新しい観念であることを示した。この著作は大きな反響を呼び,「子供」ひいては「近代」をめぐる活発な議論を巻き起した。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

フランスの歴史家。ブロア生まれ。パリ大学で歴史学を学び、在学中はアクシオン・フランセーズで活躍。1939年の卒業後は大学の教職には就かず、フランス政府の設立した熱帯農業に関する調査機関に勤めながら、独自の視点で研究を続ける。

 『フランス諸住民の歴史』Histoire des populations françaises et de leurs attitudes devant la vie depuis le ⅩⅧe siècle(1948)は歴史学者からは無視されるが、『ル・モンド』で書評されるなど、アリエス自身の述懐によれば「ひそかに受けた」。そのころからアンリ・ルフェーブルの誘いにより、国立科学研究所のゼミナールでゲスト・スピーカーを務めるなど、大学との間接的な交流も始まる。1978年社会科学高等研究院の準教授に迎えられるまで「日曜歴史家」に留まる。

 16~17世紀における近代の家族形態の出現とともに「子供」の観念が誕生したとする『〈子供〉の誕生』L'enfant et la vie familiale sous l'Ancien Régime(1960)は10年の歳月をかけた研究成果であり、服装や遊び、性などの状況を考察することで「小さな大人」が「子供」として扱われるようになる様子を描いた。この著作はアナール学派による「新しい歴史学」とも呼応し、世界的に評価を高める。古代から現代に至る西欧人の「死に対する態度」の変遷を考察した『死を前にした人間』L'homme devant la mort(1977)では、墓地や遺言書などを分析し、現代西欧人の「死に対する態度」が「転倒した」ものであること(怖れによって死が遠ざけられることでかえってわからないものとして不安が増大する)を示した。そのほか死にまつわるイメージの変遷を整理したものに『図説 死の文化史』Images de l'homme devant la mort(1983)がある。

 アリエスは人間の世界観が変遷する諸相をあとづけ、日常生活のなかで固定的であると人々に感じられる観念が時代とともに移り変わることを明確に示した。方法としては人口統計や図像資料などを手がかりに、ある対象へのまなざしやマンタリテmentalité(ある時代の人々が共有する心性)を浮かび上がらせるもので、マルク・ブロックやミシェル・フーコーらの手法とも共通し、社会史や人類学的歴史学などの分野で継承されている。

[織田竜也 2019年2月18日]

『杉山光信・杉山恵美子訳『〈子供〉の誕生――アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』(1980・みすず書房)』『フィリップ・アリエス著、伊藤晃・成瀬駒男訳『死と歴史――西欧中世から現代へ』(1983・みすず書房)』『フィリップ・アリエス著、成瀬駒男訳『日曜歴史家』(1985・みすず書房)』『成瀬駒男訳『死を前にした人間』(1990・みすず書房)』『福井憲彦訳『図説 死の文化史――ひとは死をどのように生きたか』(1990・日本エディタースクール出版部)』『中内敏夫・森田伸子編訳『「教育」の誕生』(1992・藤原書店)』『杉山光信訳『歴史の時間』(1993・みすず書房)』『成瀬駒男・伊藤晃訳『歴史家の歩み――アリエス1943―1983』(1999・法政大学出版局)』『Histoire des populations françaises et de leurs attitudes devant la vie depuis le ⅩⅧe siècle(1971, Éditions du Seuil, Paris)』

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