統計学の基本的・応用的部門の一つで,人口集団の系統的・数量的表現をいう。統計学には,(1)社会的大量現象を研究対象とする社会科学の一つ,(2)集団現象に適用されるべき数量的研究方法,という二つの概念規定がある。このような統計学に対する概念規定は,当然,統計学とその成立および発展をともにしてきた人口統計の方法と考え方にも反映して,統計学と同じ二つの概念規定に到達し,その学問的性格に対する認識にも相違がでてくる。その代表的な例として,J.グラントの《死亡表に関する自然的および政治的諸観察》(1662),およびJ.P.ジュースミルヒの《神の秩序》(1741)をあげることができる。前者は統計的研究の対象として人間の出生→死亡現象に初めて統計的研究方法を適用したものであり,後者はこれを受け継ぎながら多分に世代生命表的な考え方へと発展させたものである。A.ケトレは,ジュースミルヒのこの考え方の中に法則性を見いだし,〈科学としての統計学の完成〉に歴史的に貢献した。
執筆者:飯淵 康雄 人口統計には,大きく分けると,人口静態統計と人口動態統計(人口動態)の2種類がある。人口集団は,出生,死亡,移動(流入と流出)を通じて絶え間なく変動しており,瞬時といえども静止していない。このような人口を変化せしめる要因を人口動態要因といい,これの数量的記述が人口動態統計である。しかし,このような動態事件vital eventsの中で,出生,死亡と移動は,本質的に性質が異なっているため,現実には出生,死亡(それに結婚,離婚が含まれることが多い)を対象とした統計が人口動態統計として扱われている。人口動態現象である人口移動に関する調査は,一般に別個にサンプル調査や国勢調査の中で間接的に行われている。しかし,日本では,住民基本台帳法(1967公布)に基づいて報告される転出入記録が総務庁統計局(現在の総務省統計局)によって集計され,《住民基本台帳人口移動報告年報》として公表されている(ただし1954年から67年までは住民登録法に基づく)。
第2次大戦前においては,内閣統計局によって人口調査とともに人口動態統計調査も行われていたが,戦後においてはその所管が厚生省に移管された。
毎年,公表される日本の《人口動態統計》には,出生,死亡,結婚,離婚および死産(妊娠第4月以後の死児の出産)についての詳細な統計が示されている。これらの統計は,政府の行政ならびに将来計画の立案にあたっての重要な指標であるのみならず,民間企業にとっても生産計画上の重要資料となる。たとえば,1993年の人口動態統計は,出生率がそれまでよりもさらに低下して人口動態統計史上初めての9.6(人口1000人当りの出生数)という最低水準に達したことを示している。これは乳幼児食品生産企業にとっては顧客の激減を意味する。また,保育所,幼稚園,そしてやがて義務教育年齢に達する人口の激減の確実な情報である。
ある期間に発生した人口動態事件の結果を,ある瞬間においてとらえた人口の姿を表したものが人口静態統計である。人口静態統計は,一般に人口調査population census(日本では国勢調査とよばれている)の結果によって作成される。日本では1920年以降5年ごとに国勢調査が行われてきている(1944年と46年,47年,48年には特別の人口調査が行われている)。調査される事項は,国により,また社会,経済,政治情勢の変化によって異なってくるが,一般に,人口学的事項(男女別,年齢,出生地,配偶関係,出産力,世帯上の地位等),経済的事項(職業,所属産業,従業上の地位,就業状態,所得等),社会的事項(教育程度,読み書き能力,居住期間,前住地,宗教等)が調査される。このような人口調査は一般に一定の間隔をもって行われるため,その比較を通じて,人口の増減,人口構造の変化,人口の経済的・社会的構造の変化を知ることができる。また,最新の人口調査結果は,とくに人口の将来変動を規定する最も重要な前提条件として,将来の経済・社会開発計画の策定に役立つ。
人口統計を広く解釈すると,前述の人口動態統計や人口静態統計のみならず,この両者を利用した高度の統計である生命表や人口推計結果等も含まれることになろう。人口統計が人口現象や人口問題研究の基礎になることはいうまでもないが,経済学や社会学を含む社会科学研究の基礎資料として重要な意義をもっていることに留意しなければならない。
→人口 →人口調査
執筆者:黒田 俊夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
一定の地域(国、都道府県など)における人口集団について、その一定時点における状態および一定期間における変動状況を把握する統計についての総称。人口の一定時点における規模、構造、分布などの状態を把握する統計は人口静態統計とよばれる。国勢調査(国勢統計)が代表的な存在であり、基幹統計に指定されている。一定期間における出生・死亡などの変動状況を把握する統計は人口動態調査とよばれ、これも基幹統計に指定されている。このほか、5年ごとに実施される国勢調査の間の時点においての各月、各年の人口の状況を把握するために行う人口推計も基幹統計に指定されている。
[飯塚信夫 2020年9月17日]
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