アンドレーエ(英語表記)Johann Valentin Andreae

改訂新版 世界大百科事典 「アンドレーエ」の意味・わかりやすい解説

アンドレーエ
Johann Valentin Andreae
生没年:1586-1654

17世紀初頭の薔薇ばら)十字団運動に重要な役割をはたした人物。薔薇十字団の四大著作のうち《世界の普遍的改革》《薔薇十字の伝説》《薔薇十字の信条》の3著の著者ではないまでも共同執筆者の一人であり,幻想小説風の奇書《化学の結婚》(1616)は彼の作品であることがほぼ確実とみられている。ルター派領袖としてプロテスタント内部の教義統一をはかった《和協信条》の編纂者ヤーコプ・アンドレーエJakob Andreae(1528-90)の孫。ビュルテンベルクのヘレンベルクに生まれ,チュービンゲンの急進的な学者サークルと交わったあと,ヨーロッパ各地を遍歴した。イタリアでカンパネラ系譜を引く結社〈太陽協会〉と接触,帰国後ファイヒンゲンの副牧師となり,このころから薔薇十字四大著作を刊行した。一連の著作は1484年に死んだとされる伝説上の人物ローゼンクロイツChristian Rosenkreuz(〈薔薇十字〉の意)の120年後の復活を予言し,薔薇十字思想が地上に実現されるであろうことを予告している。これは三十年戦争を前にしたヨーロッパの混迷秩序をもたらさんとする願望表現であり,近年の研究によれば,《化学の結婚》には,ファルツ選帝侯とジェームズ1世の娘エリザベスとの〈結婚〉による分裂したヨーロッパの統一が寓されているという。そのためか2人の婚礼余興として上演されたシェークスピアの《テンペスト》をモデルにした劇中劇が,この小説の一節には挿入されている。アンドレーエ自身は,晩年薔薇十字運動とのいっさいのかかわりを否定した。
薔薇十字団
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアンドレーエの言及

【オカルティズム】より

…これ以後パラケルススが医学,錬金術,薬草学のような自然学の基盤の上に秘密の知を展開して,近代オカルティズム成立へと大きく転回せしめた。〈大いなる転回〉(W.E.ポイカート)と称されるこの精神運動はフラッド,アンドレーエらを巻き込んで全ヨーロッパ的な規模で展開され,三十年戦争の危機に際しては,分裂したヨーロッパの統一再生をはかる錬金術的処方として,薔薇十字団の綱領《世界の普遍的改革》に政治的表現をすら見いだした。シェークスピア晩年の戯曲《テンペスト》は,こうしたルネサンス期オカルティズムに関する寓意をはらんでいるといわれる。…

【薔薇十字団】より

…四つの基本文書とは,まず1614年にカッセルから出たパンフレット《全世界の普遍的かつ総体的改革》,並びにその付録の《薔薇十字団の伝説》,15年刊の《薔薇十字団の信条》,最後にシュトラスブルクで16年に刊行された風刺的寓意小説《化学の結婚》である。それらは,神学者J.V.アンドレーエを中心とするチュービンゲンの急進的学者グループの周辺から生まれたとおぼしく,このうち《全世界の普遍的かつ総体的改革》はギリシア学者でアンドレーエの師ベゾルトChristoph Besold(1577‐1638)による,イタリアのカンパネラ主義者ボッカリーニTrajano Boccalini(1556‐1613)の風刺小説《パルナッソス詳報》の一部の抜粋訳,また《化学の結婚》はアンドレーエ個人のみによる著作とみなされている。
[始祖伝説と活動理念]
 《薔薇十字団の伝説》によれば,始祖ローゼンクロイツは1378年ドイツに生まれ,修道院で諸学を修めてからアラビア,モロッコなど東方諸国を旅して錬金術と魔術を研究し,ドイツに帰ると7人の同志とともに教団を結成した。…

【汎知学】より

…ラテン語,ドイツ語を直接写してパンソフィア,パンゾフィーともいう。H.クーンラート,ノリウスNollius,ドルンG.Dorn,V.ワイゲル,ジデロクラテスS.Siderocratesのような,主としてドイツのカッセルとフランクフルトを中心に活動した学者たちによって1600年前後に培われ,やがてチュービンゲンの知識人グループに波及してより福音主義的な色彩を帯びながら,J.V.アンドレーエの薔薇(ばら)十字文書に集中的表現を見いだした。なお本来,〈汎知学〉とは〈神智(知)学theosophia,Theosophie〉の対概念で,ギリシア語の〈すべてpan〉と〈知sophia〉とからなり,一般的用法では〈百科全書的知識〉を意味する。…

【ユートピア】より

…カンパネラのものも,彼がカトリックを受けいれたのちの作品であるため,カトリックの秘教的性格を加えているが,キリスト教倫理と摂理とが前面に掲げられたユートピア論はほかにもあらわれる。J.V.アンドレーエ《クリスティアノポリス(キリスト教都市)》(1619),S.ゴット《新エルサレム》(1648)が代表例。最も秘教的・セクト的傾向が明らかなのは,ピューリタン革命期のディガーズの指導者G.ウィンスタンリーによる《自由の法》(1652)であり,強い求道的イメージで貫かれている。…

【錬金術】より

…シェークスピアの《リア王》は艱難辛苦が人間を完成に近づけることを錬金術のメタファーに従って物語り,《あらし(テンペスト)》はディーの魔術師としての側面を戯曲化したものといわれる。この傾向は真正な薔薇十字主義者J.V.アンドレーエにもみられ,彼に帰せられる《化学の結婚》は錬金術の奥義をそのまま物語化したものである。また詩人H.ボーンと兄弟であった錬金術研究者T.ボーンも詩による錬金術思想の理解と表現法を探究した。…

※「アンドレーエ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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