日本大百科全書(ニッポニカ) 「イトヨリダイ」の意味・わかりやすい解説
イトヨリダイ
いとよりだい / 糸撚鯛
golden threadfin bream
[学] Nemipterus virgatus
硬骨魚綱スズキ目イトヨリダイ科に属する海水魚。新潟県以南の日本海沿岸、茨城県以南の太平洋沿岸、東シナ海、朝鮮半島南岸、台湾、フィリピン諸島、オーストラリア北西岸などに分布する。南西諸島にはいない。体は長紡錘形でやや側扁(そくへん)する。目は吻端(ふんたん)と胸びれの基底上端を結ぶ線より上にある。頭頂部の鱗(うろこ)はくさび形に並び、眼窩(がんか)の後方から中央部付近まで伸びる。頬(ほお)の鱗は3列。臀(しり)びれは3棘(きょく)8軟条。尾びれは深く二叉(にさ)し、その上葉は糸状に伸びる。最大の体長は約35センチメートルで、普通は20センチメートルほど。体は美しい赤色で、体側に鱗列(りんれつ)に沿う6条の黄色縦線がある。鰓蓋(さいがい)直後の側線部には三つの赤色斑(はん)が1列に並んでいる。尾びれの上葉の伸長鰭条(きじょう)は鮮黄色。水深40~250メートルに生息し、甲殻類や小形底生動物を食べる。5~6月ごろに卵径0.65~0.7ミリメートルの小さい分離浮性卵を産む。卵は水温24℃では約28時間で孵化(ふか)する。鱗の輪紋からみた寿命は3歳。雄は雌より成長がよい。退化的な雌雄同体魚で、すべての雄は生涯にわたって機能的な精巣と退化的な卵巣をもつ。甲殻類、魚類、頭足類などを食べる。一本釣り、延縄(はえなわ)などで漁獲される。肉は白く、味は淡泊で、高級魚として珍重される。刺身、蒸し、照焼き、みそ漬け、煮つけ、吸い物などにすると美味である。近縁種にソコイトヨリがある。この種は、臀びれが3棘7軟条であること、側線の始部に赤色斑がないことで、イトヨリダイと区別できる。
[赤崎正人・尼岡邦夫 2017年7月19日]