イボニシ
Reishia clavigera
岩磯にみられるホネガイ科の巻貝。殻の高さ4cm,太さ2.5cmになる。殻表は青灰色で,大きいいぼの列が黒く目だつのでこの名がある。殻口は広くて黒いが,外縁の内側は白いかすり模様がある。ふたは革質褐色であるが,上下端は黄色。北海道南部から沖縄,さらに西太平洋にも広く分布し,潮間帯の岩れき底などに多い。夏季には多数集合して岩の下側に多数の小さい棍棒状の卵囊を産みつける。卵囊は透明であるが,卵の色で黄色にみえる。肉食で岩礁に付着したフジツボや貝を口の吻(ふん)をのばして,前腸腺から出す酸で穴を開けたりするので,カキの養殖に害がある。また鰓下腺(さいかせん)の粘液を日光にあてると紫色に発色するので,志摩では海女がこれで布に呪文(じゆもん)を書く風習があった。近縁種のレイシガイR.bronniがやはり岩磯に多くみられる。またこの類に近いメキシコ産のサラレイシガイPatellipurpura patulaから鰓下腺の粘液で布を紫色に染める風習が今に残っている。
執筆者:波部 忠重
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イボニシ
いぼにし / 疣辛螺
[学] Thais clavigera
軟体動物門腹足綱アクキガイ科の巻き貝。北海道南部から九州および西太平洋の潮間帯の岩礁にもっとも普通にみられる貝の1種。殻高40ミリメートル、殻径25ミリメートルの短い紡錘形、殻表は灰青色で大きな黒いいぼの列がある。殻口は卵円形で内面は黒く、縁には黄白色の斑紋(はんもん)がある。軸唇も黄白色を帯び、蓋(ふた)は褐色で、核は外側に寄る。夏季に岩棚(いわだな)の下面に多数集まって、小さな花瓶形の卵嚢(らんのう)を多数産み付ける。肉食性で、岩礁にすむケガキやマガキ、フジツボ類に穴をあけて殺して食べる。肉は辛いのでニシ(辛螺)の字をあてる。
[奥谷喬司]
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イボニシ
Thais clavigera
軟体動物門腹足綱アクキガイ科の巻貝。殻高 4cm,殻径 2.5cm。殻は紡錐形で螺塔は円錐形。殻表は黒褐色で,大きくて黒いいぼ列が,体層に4列,それ以外の螺層に1列ある。殻口は大きく,殻口内は黒色,殻口縁には白色斑がある。ふたは褐色。夏季に岩の下面に多数集って小さい花瓶形の卵嚢を数多く産みつける。肉食性で,口から歯舌を出してカキ,フジツボなどに小さな穴をあけて食べるため,養殖の害貝となっている。北海道南部から九州,西太平洋の潮間帯の岩磯にごく普通にみられる。鰓下腺の粘液を日光にさらすと紫色に発色するので,志摩では海女が布に文字を染めたりした。
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イボニシ
ホネガイ科の巻貝。殻は高さ4cm,幅2.5cm,殻表は灰青色で黒色のいぼが4〜5列並び,殻口は黒色で黄白色斑がある。ふたは褐色の革質。北海道南部以南の潮間帯の岩礁に普通。夏の産卵期に多数集合して小さい棍棒状の卵嚢を多く産む。肉食でカキなどに穴をあけて食害する。肉は食用。レイシガイは本種に似て,いぼは大きく,殻口は黄色。前種と同様カキなどを食害する。
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世界大百科事典(旧版)内のイボニシの言及
【貝】より
…また南アメリカの前10世紀以前のプレ・インカの遺跡でも同じくサラレイシガイやアワビモドキからとった貝紫で染めた布が出土し,現在もメキシコの太平洋岸のオアハカ州では11~3月にサラレイシガイで染色を行っている。日本では紫の染料は植物のムラサキから採取していたので,この技術はとくには発達せず,志摩の海女が布にイボニシなどで印をつけたというくらいである。紫色の染料は上記の種類に限らずアクキガイ科の大部分の種類から採取でき,染色工芸家の間ではアカニシ,チリメンボラ,イボニシ,レイシガイ,エゾチヂミボラなどが使われる。…
※「イボニシ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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