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海女 あま

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

海女
あま

男性の場合は海士と書く。潜水して魚介類,海草の採取を仕事とする漁民。現在では海士の数は少く,ほとんどが海女となっているが,これは男子に比べ皮下脂肪が厚く,寒さに耐えられる女子に適する作業であるためといわれる。太平洋岸の岩手,千葉,静岡,三重,徳島や,日本海側の長崎,福井,石川,新潟の地方に多いが,なかでも千葉県の太平洋岸と三重県志摩が有名。採取の場所が磯と沖に分れるところから磯海女,沖海女と呼ばれる。潜水時間を長くして採取量をふやすため,石や分銅のおもりを使用して沈下を早めたり,舟の上から息綱を引いて浮上を早める手段がある。約2時間が潜水作業の1単位という重労働の繰返しで,焚火や焼石により暖をとる。漁具は貝起し用金具と桶で,これは海女の重要な嫁入り道具の一つにもなっている。少女から老女にいたるまで潜水するが,海底知識や経験から女盛りが技術的にすぐれる。獲物の多い場所を秘密にし,互いに専用権を認めて,生涯他人を入り込ませない習慣がある。

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知恵蔵の解説

海女

海に潜ってサザエやアワビなどの貝類やワカメやテングサなどの海藻類を採る女性。素潜り潜水漁に従事する人々を「あま」と呼び、女性を「海女」、男性を「海士」と表記する。
古来各地の沿海部に分布しているが、高齢化と後継者不足から従事者が減っている。女性の素潜り潜水漁が行われているのは日本と韓国だけとされ、近年では観光資源としても注目されている。2013年には、岩手県の女子高校生海女を主人公とするドラマ「あまちゃん」(NHK)が人気となった。
海の博物館(三重県鳥羽市)による10年の調査によれば、海女は少なくとも18道県に2174人いることが報告されている。うち973人と半数近くが三重県におり、石川県197人、千葉県158人、静岡県153人などと続く。第2次世界大戦後初の1956年調査では、全国で1万7611人、うち三重県に7000人以上いたとされ、以後次第に減ってきている。
素潜り潜水漁は小資本で始められる季節的な生産活動で、農業や家業と組み合わせて複合的に行われることが多い。漁獲量や漁獲高には、潜水能力や漁場の知識、採捕技能などの個人の経験や技能が反映され、高齢になっても熟練の技を発揮できる。近年では、乱獲や海底汚染による漁業資源の減少などもあり、新たに海女になる人はほとんどなく、各地の海女は若い世代でも50歳代だという。

(原田英美 ライター / 2013年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

大辞林 第三版の解説

あま【海女】

〔「あま(海人)」と同源〕
海に潜って貝・海藻などをとることを職業とする女性。かずきめ。 [季] 夏。 〔男の場合は「海人・海士」とあてる〕

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

海女
あま

海士とも書く。潜水によって海中の魚貝類、海藻類をとる漁業者のことで、一般に女に海女、男に海士という字をあてる。潜水漁業の存在は相当古くから認められており、『古事記』『日本書紀』『風土記(ふどき)』『万葉集』などの文献においては、海人、海部、蜑、白水郎などの文字で記されている。また『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』にも、その活躍について述べられている。歴史的には、安曇(あずみ)氏を首長とする部民(べのたみ)として存在し、その後全国各地に広がったとみられ、海部、安曇などの地名を残している。現在の分布は多くの地方にまたがっているが、太平洋岸の岩手、千葉、静岡、三重、徳島、および日本海側の新潟、石川、福井、長崎の諸県に多くみられ、海女の浦と海士の浦とが混在している。あまが有名な場所としては、千葉県の南房総、静岡県の伊豆、三重県の伊勢(いせ)、志摩、山口県の大浦、福岡県の鐘崎(かねざき)(宗像(むなかた)市)、長崎県対馬(つしま)の曲(まがり)、福井県の雄島、石川県の舳倉(へぐら)島などであるが、多くは海女が主体となっている。大きくいって千葉、三重、長崎の各県を結ぶ線の北側では海女が多く、南側では海士が多い。鹿児島、奄美(あまみ)、沖縄と南にいくにつれて海女はまったくみられなくなってしまう。この一般的傾向を、女性の皮下脂肪の厚さによる耐寒性で説明しようとする学者もいるが、まだはっきりはしていない。
 あまは主として、アワビ、サザエ、イガイ、トコブシ、マナマコ、ウニなどの貝類や海産動物、テングサ、エゴノリ、ワカメ、コンブなどの海藻類を採取する。真珠取りの海女などは新しい傾向である。アワビは古代より珍重されており、近世に入ってからは干しアワビが俵物(たわらもの)の一つとして、海外に輸出されていた。19世紀ごろからは、寒天の材料としてテングサやエゴノリの需要を増し、比較的浅い海でテングサを採取する海女が増加した。ほとんどの海女は潜水を行うが、海士のほうは潜水をする者もあれば、船上からすこし細工をした長い棒を海中に差し入れて海藻をとったり、箱眼鏡などの道具を用いて海中をのぞきアワビを突くという所も多い。古書では、潜水作業のことを「かづき」、それをする女を「かづきめ」などとよんでいるが、現在は普通潜ることを「もぐる」「かづく」「すむ」などという。千葉県房総半島では、1回の潜水を「ひといき」とよび、この「ひといき」を2時間ばかりの間に数十回繰り返して船にあがる。これが一つの作業単位で「ひとおり」といい、その間は船べりにつかまって休み、呼吸を整えてからまた潜るという激しい労働を繰り返す。「ひとおり」が終わると、船や陸上にあがり、火をたいて身体を暖めるのである。1日に「三おり」するのが普通である。
 普通の海女は岸近い5~6尋(ひろ)(9~11メートル)まで潜るが、巧みな者は15~20尋(27~36メートル)も潜り、それだけ収獲も多い。以前は肉眼で潜ったので非常に目を痛めたが、明治30年ころからは潜水用の眼鏡を使用するようになった。また現在は潜水用の足ひれやウェットスーツなども使用されている。海女の仕事は寸秒を争うので、その潜水と浮上には種々のくふうがなされている。沈下を速めるために、石のおもりや金属の分銅をつけたり、浮上を速めるために船上に男子(多くは夫)がいて、海女の腰につけた「いきづな」(息綱)という綱をたぐって浮上を助けることなど、相当古くから行われていた。アワビを岩からはぐのに、偏平でてこ形の鉄製道具である「いそがね」「なさし」「のみ」などとよばれるものを使い、腰にさして潜る。また採取したものを入れるのに「すかり」などという藁(わら)や苧麻(ちょま)製の袋を用いる所が多い。
 磯物(いそもの)を採取する海女の仲間ではアワビの多い場所を発見すると「だれだれのあなだ」などといって採集の専用権を認め、採集を遠慮しあう習慣があり、母親から娘へその権利が譲られたこともあった。女が漁業に参加するということは、日本の漁業では特殊な形態に属するが、その数も少ないあま漁法には古風な漁労の生活を想起させるものが少なくない。また現在では、海女だけが有名であるが、これは一家の主人である男あま(海士)の他仕事への転化が相当行われた結果であり、男の潜水も以前は多かったと思われる。男子の潜水漁業は、中国南部、マレー、太平洋地域などにも多いが、女の潜水は韓国の済州島の海女が有名で、ほかにはほとんど例がみられない。済州島の海女は、以前は朝鮮半島沿岸はもちろん、遼東(りょうとう)半島、沿海州、対馬や日本海沿岸に進出しており、その技術は日本の海女との類似点が多い。[野口武徳]
 なお、済州島特有の海女の文化は、2016年に「済州の海女文化」としてユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された。[編集部]
『瀬川清子著『販女』(1971・未来社) ▽宮本常一著『海人ものがたり』(『宮本常一著作集 20』1975・未来社) ▽桜田勝徳著『漁人』(『桜田勝徳著作集 2』1980・名著出版) ▽田辺悟著『海女――ものと人間の文化史 73』(1993・法政大学出版局)』

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世界大百科事典内の海女の言及

【海人】より

…古文献に海人,海部,蜑,白水郎などと記す。海を主なる生業の舞台とし,河川,湖沼で素潜(すもぐ)りする漁民をはじめ,釣漁,網漁,塩焼き,水上輸送・航海にたずさわる人々を,今日いう男あま(海士),女あま(海女)の区別なく〈あま〉と総称する。
[系統と分布]
 日本民族の形成過程のなかで,かなり明瞭にあとづけられるのは南方系であり,インド・チャイニーズ系とインドネシア系に大別されよう。…

【潜水漁業】より

…海中に潜って操業する漁業の意で,日本にはアマあるいはカヅキとよばれる伝統的な漁民がいる。アマには,男である海士と女である海女がいるが,かつては男女とも腰巻やふんどしなど,わずかな布を身につけただけの裸同様の姿で海に潜り,テングサ,ワカメ,コンブなどの海藻や,アワビ,サザエ,ウニなどの貝類などを,イソガネやカマなどの爬具を用いて採った。男アマである海士は,このほか,〈もり〉や〈やす〉などを使った魚の潜り突きを行うことも多かった。…

※「海女」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版について | 情報

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