ウォリンガー(英語表記)Wilhelm Worringer

改訂新版 世界大百科事典 「ウォリンガー」の意味・わかりやすい解説

ウォリンガー
Wilhelm Worringer
生没年:1881-1965

ドイツの美術史家。アーヘンに生まれ,ドイツ各地の大学で学んだのち,ベルン大学,ボン大学の講師を経て1928年ケーニヒスベルク大学教授。46年ハレ大学教授となる。50年以降はミュンヘンに暮らし,同地で没した。その学風リーグルの流れをくむもので,美術史の根本にある芸術意欲解明主眼とした。1908年に出版された《抽象感情移入》は,美術創作の根底に〈抽象〉と〈感情移入〉という対極的な二つの衝動を想定し,それによって美術史の基本的様相を説明しようとしたもので,その説は,表現主義をはじめとする現代の芸術家にも大きな刺激を与えた。その後の著作もそこに提示された根本的概念に従って,古代から現代までの美術史の個別問題を扱ったものであるが,とりわけドイツ・ゴシック美術を論じたものが注目される。その研究活動の概要は,主要な小論を再録した論文集《問いと反問》(1956)にうかがわれる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウォリンガー」の意味・わかりやすい解説

ウォリンガー
Worringer, Robert Wilhelm

[生]1881.1.31. アーヘン
[没]1965.3.29. ミュンヘン
ドイツの美術史家。 1928年ケーニヒスベルク大学教授,46年ハレ大学教授。 52年から没年までミュンヘンに定住。博士論文『抽象と感情移入』 Abstraktion und Einfühlung (1908) によって広く注目される。彼の思想は,A.リーグルの『様式の問題』 (1893) や『後期ローマの工芸』 (1901) で規定された「芸術意欲」 Kunstwollenの概念がその基礎づけとなっている。主要著書『ゴシックの形式問題』 Formproblem der Gotik (11) ,『中世ドイツの写本挿絵』 Altdeutsche Buchillustration (12) ,『ドイツ木版画の起源』 Die Anfänge der Deutschen Tafelmalerei (24) ,『エジプト芸術』 Ägyptische Kunst (27) ,『ギリシア精神とゴシック』 Griechentum und Gotik (28) ,『現代芸術の問題点』 Problematik der Gegenwartskunst (48) ,『問いと反問』 Fragen und Gegenfragen (56) 。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウォリンガー」の意味・わかりやすい解説

ウォリンガー
うぉりんがー
Wilhelm Worringer
(1881―1965)

ドイツの美術史学者。ケーニヒスベルク大学(現、イマヌエル・カント・バルト連邦大学)教授を務め、第二次世界大戦後は東ドイツのハレ大学に招かれたが、晩年はミュンヘンに居住、同地で没した。美術史学におけるいわゆるウィーン学派のリーグルを受け継ぎ、「芸術意欲」を基礎として美術史を精神史に関連づけようとした。主著『抽象と感情移入』(1908)にみるように、基本的な芸術類型に基づく方法を採用して研究を推し進め、古代エジプトや中世ゴシックの美術にも、西欧的・古典的な美術とは別な、感情移入説では説明できない独自の美があることを論証した。またその抽象芸術の位置づけは20世紀美術の理解にも意義をもっている。ほかに『ゴシック美術形式論』(1911)、『ギリシア精神とゴシック』(1928)、『現代芸術の形式問題』(1948)、『エジプトの芸術』(1924)などの著書がある。

[鹿島 享]

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百科事典マイペディア 「ウォリンガー」の意味・わかりやすい解説

ウォリンガー

ドイツの美術史家,美学者。アーヘン生れ。ボン,ケーニヒスベルク,ハレの各大学教授を歴任。リーグルの流れをくみ,美術史の根源にある芸術意欲の解明を主眼とした。原始美術や中世芸術の〈抽象性〉に着目し,その意義と独自の美を評価した主著《抽象と感情移入》(1908年)は,抽象芸術の発展を促すうえでも重要な役割を果たした。

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世界大百科事典(旧版)内のウォリンガーの言及

【絵画】より

… しかしながら,もちろん,現実の再現だけが絵画のすべてではない。ウォリンガーは《抽象と感情移入》(1908)において,何もない空間を埋めようとする人間の衝動には,現実に対応する形を用いる場合と,抽象的な図形を用いる場合があるとして,写実的な表現と並んで,抽象表現も絵画における重要な要素であることを指摘した。それは,色と形の配合による装飾と呼んでもよいであろう。…

【文様】より

…装飾文様の様式は,その時代,民族によって変遷してきた。リーグルの弟子W.ウォリンガーが,〈装飾の本質は,その作品に,一つの民族の芸術意欲が,もっとも純粋に,もっともはっきりと表現されている点にある〉(《抽象と感情移入》1908)と述べているように,文様はそれぞれの時代や地方様式を最も端的に読みとりうるものとして,重要視されなくてはならない。それは単に彫刻,絵画,建築などに従属するものではないのである。…

※「ウォリンガー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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