抽象芸術(読み)チュウショウゲイジュツ

百科事典マイペディアの解説

抽象芸術【ちゅうしょうげいじゅつ】

アブストラクト・アートabstract artの訳。自然界の形象を具体的に表現しない美術。広い意味では歴史を通じて常に存在したが,特に抽象が大きく問題化されてくるのは20世紀に入ってからである。絵画では,カンディンスキーが1910年に描いた水彩画に始まり,構成主義新造形主義キュビスムから枝分れしたオルフィスムなど,さまざまな傾向が生まれた。抽象芸術は,幾何学的抽象と表現主義的抽象に大別することができる。前者は厳正な幾何学的フォルムによって作品を構成する純粋造形,主知主義的傾向であり,後者は第2次大戦後に登場した米国の抽象表現主義,フランスのアンフォルメルなどにみられる表現主義的傾向である。彫刻は絵画の流れを受けて始まり,従来の金属,石材,木材のほかプラスチックなどもとり上げられて多様に展開した。抽象芸術の創出には神智学人智学などの神秘主義運動,現象学,相対性理論をはじめとする物理学や数学の革新など,多様な背景がある。
→関連項目アプストラクシヨン・クレアシヨンウォリンガーブラウエ・ライターモンドリアン

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世界大百科事典 第2版の解説

ちゅうしょうげいじゅつ【抽象芸術】

アブストラクト・アートabstract artの訳。non‐figurative art(非具象芸術),non‐objective art(非対象芸術)の語も用いられるが,それらの区別は必ずしも厳密ではない。絵の中に描かれたリンゴは現実のリンゴではないことからもわかるように,ある意味では美術とはすべて抽象であるということもできる。しかし近代美術において〈抽象〉という場合,普通は〈現実世界を再現,または思い起こさせることのない〉(フランスの美術批評家,画家スーフォールM.Seuphor)美術を指す。

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精選版 日本国語大辞典の解説

ちゅうしょう‐げいじゅつ チウシャウ‥【抽象芸術】

〘名〙 具体的な対象の再現を目的としないで、形態・色彩自身の表現をめざす美術。第一次世界大戦前に始まり、現代美術の主流の一つとなった。抽象絵画、抽象彫刻など。具体的な対象から出発し、その対象の外形をほとんど見分けのつかないほど変形するもの、最初から具体的な対象とは関係なく、幾何学的形態によって作品を構成するものなど、いろいろな傾向のものが含まれる。最も広義には、原始的な装飾、イスラム、ビザンチンなどの幾何学模様などもこの名で呼ばれる。アブストラクト
※近代絵画(1954‐58)〈小林秀雄〉ピカソ「二十世紀の抽象芸術は明答は得られないにせよ」

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世界大百科事典内の抽象芸術の言及

【アバンギャルド】より

…だが,第1次大戦中におこったダダは,嫌悪と自発性を原理として,芸術のタブラ・ラサ(白紙状態)への還元を求め,あらゆる物体や行為も芸術作品たりうることを立証した点で,カンディンスキーの精神の三角形を逆立ちさせた観がある。事実,前衛芸術の概念が普及したのは,ブルジョア社会の破局があらわになった第1次大戦以後で,抽象芸術シュルレアリスムがその二大潮流を形づくったほか,プルースト,ジョイス,A.V.ウルフ,A.ハクスリー,カフカ,ピランデロ,ドス・パソスらの文学も,先鋭な方法的実験によって注目された。反面,革命精神も流派や様式として実体化されると,モダニズムの風潮に飲み込まれがちで,ロシア革命後ソ連のプロレトクリトの運動や,資本主義諸国のプロレタリア芸術運動は,その点を厳しく批判したから,〈革命の芸術と芸術の革命〉〈政治の前衛と芸術の前衛〉の統一が絶えず求められた。…

※「抽象芸術」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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