翻訳|oil dollar
あいまいな概念のため明確な定義はないが,1973年の原油価格の大幅引上げにより,以後,中東産油国には多額の石油収入が発生し,使い切れない余剰外貨が生まれたが,これを一般に〈オイル・ダラー〉と呼ぶ。第4次中東戦争(1973年秋)をきっかけとして中東産油国は石油を武器として使うことを決定し,同年12月OPEC(オぺツク)総会において原油公示価格を一挙に1バレル当り12ドル近くにすることを決めた(戦前と比べると約4倍)。この結果,中東産油国全体でみると,74年には輸出量はほとんど増えなかったにもかかわらず,貿易収支は前年の215億ドルの黒字から770億ドルの黒字に増え,経常収支も600億ドルという大幅な黒字に転じた。この黒字は当然ドル資産その他の金融資産として運用されたが,その資金源が石油輸出の急増の結果であったため,〈オイル・ダラー〉または〈オイル・マネーoil money〉とよばれた。しかも,OPECのカルテルとしての価格支配力は強く,またこれらの国の輸入額は,人口数の僅少などの理由から輸出額に見合った急増はしなかった。そのうえ,国際収支の大幅黒字国の通常の国際収支均衡策である為替相場の切上げや,国内需要の拡大では効果のない,世界経済にとって経験のない恒常的黒字が永続したため,オイル・ダラーの累積は途方もない巨額なものになると危惧された。その反面,石油を産出しない国々は恒常的赤字に悩み,国際経済は石油価格の高騰と石油産出国への所得移転というインフレおよびデフレの破壊的効果を受けるだろうと予測された。
その後の経過をみると,(1)消費国のエネルギー節約とOPEC以外の国々(たとえば,北海油田,メキシコなど)の増産,(2)先進国のインフレ抑制に重点を置いた引締政策の結果による経済成長の低迷,(3)OPEC諸国の野心的社会開発計画に伴う予想外の輸入増などの諸要因もあって,必ずしも一本調子でオイル・マネーの蓄積が進まなかった。もっとも,78年のイラン革命を契機とする石油供給減から第2次石油危機が発生し,80年および81年はそれぞれ1000億ドルを超える経常収支の黒字が発生したが,石油もやはり商品であり,その後の世界同時不況の際は,オイル・ダラーは増加するどころか取り崩さなければならなくなった。
オイル・ダラーの蓄積が問題視されるもう一つの理由は,その運用パターンが有利・安全な投資を最優先とし,金利や為替相場にも敏感であるため,ほんとうにオイル・マネーの還流を必要とする国に流入せず,均衡破壊的な動きをすることである。もっとも,この危惧された点は,ユーロ市場や国内市場が仲介して予想以上に円滑に還流されたが,それがかえって非産油発展途上国の債務を累積させ,新たな金融不安のたねとなっている。今後の焦点は,石油の需給(中東政局の動向を含む)がどうなるか,および運用パターンが世界経済の活性化に寄与するかどうかであろう。
→石油危機
執筆者:鈴木 秀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
広義には産油国が石油輸出代金として受け取るドルをいうが、一般には石油輸出国機構(OPEC(オペック))諸国の経常収支の黒字によって蓄積されたドルをさす。石油代金にはドル以外の通貨も含まれるのでオイル・マネーoil moneyともいわれ、またおもな保有国がアラブ諸国であるのでシェーク(イスラム教国の首長の意)・ダラーsheik dollarとよぶこともある。
1973年のOPECによる大幅な石油値上げは、世界経済を空前のインフレ、不況、国際収支不均衡の三重苦に陥れた(第一次オイル・ショック)が、74年のOPEC諸国の経常収支の黒字は600億ドルに達した。75年から78年までは石油価格は横ばいで推移したためOPEC諸国の黒字は漸減したが、79年には石油価格がふたたび大幅に引き上げられ(第二次オイル・ショック)、黒字も増加し、80年には1150億ドルの巨額に達した。その結果、OPEC諸国の経常収支の黒字累計は80年末で3500億ドルを超えるに至った。
このような巨額の資金が一部の国に偏在すると国際間の決済に重大な支障をきたすので、オイル・ダラーの赤字国への還流が世界的課題となった。OPEC諸国はオイル・ダラーを当初はユーロ・ダラー市場やニューヨーク市場で銀行預金や短期証券など短期で運用していたが、しだいに長期の政府証券や民間社債、株式へ転換を図るようになり、また堅調なマルク、スイス・フラン、円などへの転換が増えた。このように先進諸国への還流は比較的順調に進んでいるが、問題は非産油途上国への還流である。これらの途上国では累積債務が巨額になっているため、民間金融機関の貸出はカントリー・リスクの点で避けられる傾向にあり、したがってIMFなど公的機関を経由する還流への期待が大きくなっている。
[土屋六郎]
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