オオツノシカ(読み)おおつのしか(英語表記)irish elk

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オオツノシカ」の意味・わかりやすい解説

オオツノシカ
おおつのしか / 大角鹿
irish elk
[学] Megaloceros

氷河時代(第四紀更新世末)、ユーラシア大陸北部の疎林の地域に生息していた大形のシカの一グループ。角(つの)は枝分かれしなくて、板状になっていた。氷河時代の終わりとともに絶滅したとされるが、黒海周辺の地域には紀元前500年ころまで生き残っていて、英雄叙事詩ニーベルンゲンの歌』の怪獣はこのシカのこととされている。化石としてはアイルランドの泥炭地で80個体以上の遺体がまとまって発見されていて、肩の高さが1.8メートル、左右の角の差し渡しが4メートルにも及ぶ巨大な角をもっていたことがわかる。elkヘラジカ)とよばれることもあるが、スカンジナビアから東シベリア、また、カナダの森や沼沢地でみられるヘラジカ(学名Alces)とは別の種類のシカである。

 頭の横に伸びた角は、手を広げたような形をしていて掌状角(しょうじょうかく)とよばれ、目の上に伸びている眉枝(びし)も平板状であった。化石では、下顎(かがく)の骨が厚いので容易に区別できる。

 日本列島各地からも角や骨の化石が発見されていて、岐阜県郡上八幡(ぐじょうはちまん)(郡上市八幡町)の熊石洞(くまいしどう)や山口県秋芳洞(あきよしどう)からは、全身骨格の化石が発掘されている。日本のオオツノシカは、ヤベオオツノシカとよばれ、やや小形の固有種である。

亀井節夫

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改訂新版 世界大百科事典 「オオツノシカ」の意味・わかりやすい解説

オオツノシカ (大角鹿)
giant deer

目の上の眉枝と角幹の先端が大きく,掌状になった角をもった大型のシカで,角のさしわたしが3.7mに及ぶものもある。第四紀更新世中・後期にヨーロッパと東および北アジアに分布していたが,氷河時代の終りとともに絶滅した。形態は現生のヘラジカに似るが,首はアカシカのように上にもたげていた。ヨーロッパにいたメガロケロス属Megalocerosのものと,アジアのシノメガケロス属Sinomegacerosのものは角の形状で区別される。周口店の洞穴で北京原人にともなって産出するハレボネシカや日本の各地から知られるヤベオオツノシカは後者である。マンモスやナウマンゾウにともなうことが多く,やや開けた森や草地で生活したらしい。日本では,縄文早期ごろまで生存していたとされる。シリアや黒海地方でも前700-前500年ごろまで生き残っていたらしく,ニーベルンゲンの伝説にでてくるシェルヒSchelchという動物はオオツノシカのことだという。
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