改訂新版 世界大百科事典 「カジカガエル」の意味・わかりやすい解説
カジカガエル (河鹿蛙)
torrent frog
Buergeria buergeri(=Rhacophorus buergeri)
美声で知られる渓流性のアオガエル科の1種。一般にカジカの名で親しまれ,初夏の渓流をさわやかに流れる雄の歌声が,昔からめでられてきた。日本の固有種で,本州,四国,九州に分布し,山間の比較的川幅が広く転石の多い清流にすむ。体長は雄が3.5~4.5cm,雌は大きくて5.5~7cmほど。頭部は扁平で大きな眼が突出し,四肢の各指には吸盤が発達する。繁殖期は地方によってずれがあり,5~6月あるいは7~8月ごろで,初夏の夕暮れには雄の美しい鳴声が聞かれる。フヒ,フヒ,フィ,フィ,フィー,……と澄んだ声で昼間でも鳴くが,人が近づく気配ですぐ鳴きやむ。雌は川岸の草むらなどに潜み,雄は流れの岩に1匹ずついるが保護色で見わけにくい。鳴囊はのどの下にある。卵は大粒で浅い水中の石に付着し,1匹で200~500個ほど産む。1週間くらいで孵化(ふか)し,幼生は尾の長い流水型で,発達した吸盤状の口器で岩に吸着し表面の藻類を削りとって食べる。本種は山口,岡山両県下で生息地が国の天然記念物に指定されている。カジカは《万葉集》をはじめ多くの詩歌に詠まれてきたし,庶民の間でも水鉢に飼って美声を楽しんできた。南西諸島と台湾には別種のリュウキュウカジカガエルB.japonicaが分布する。体長は雄は3cm,雌は3.5cm。ジャンプ力にすぐれ,ふだんは流れから離れた崖道などにいる。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報