川辺の砂礫の多い平地。河原は日本の川のいたるところに見られるが,古代,そこは神の集う広場と考えられ,けがれを祓い清める場であった。伊勢神宮の禊祓(みそぎはらえ),大嘗祭・賀茂祭などのさいの天皇の禊祓,六月祓などはみな河原で行われた(河原の御祓,御禊,解除)。そこでは放牧も行われたが,京の鴨川,桂川の河原は9世紀には葬地として京職,悲田院の管轄下におかれ,〈賽(さい)の河原〉として死穢を清める場とされた。一方,河原には〈河原古市庭〉(〈故老口実伝紙背文書〉),西河原の〈市場の在家〉(《東大寺文書》)のように,市庭が立った。淀魚市は河原に在家人を招きすえ,市庭を立てたのが始めといわれ,備前福岡市,備中新見(にいみ)荘市,安芸沼田(ぬた)市などもみな中州河原の市である。市は刑場となったが,河原も同様で,平安末期以降,そこではしばしば処刑が行われ,首が懸けられた。そのころには京の河原は検非違使庁の管轄下におかれるようになっている。
元来,河原は耕地としては不適であったが,平安後期には畠をひらき,小屋を建てて住む人々が現れる。祇園社に属し,刑吏など清目(きよめ)を職掌とした犬神人(じにん)が,延久(1069-74)以来,社恩として河原の田畠を与えられたといわれているように(《八坂神社文書》),京の河原には刑吏,葬送,乞食,斃牛馬(へいぎゆうば)の皮の細工などに携わり,平安末期以降〈非人〉と呼ばれた人々が集住するようになっていった。この人々も検非違使庁の管轄下におかれている。しかし市庭の機能を持つ河原には在家が立ち並び,宿河原,河原宿などのように遍歴民の宿となり,さらには淀のように,鎌倉後期以降,遍歴民が定着し,都市として発展していく場合も多くみられた。福岡,新見や近江の船木北浜などはみなそうした都市である。また京の鴨川の河原でも,1349年(正平4・貞和5)の四条河原での橋勧進猿楽の興行のように,室町期にかけて,さかんに芸能が行われた。そこが冥府,地獄との接点と考えられたことにより,鎮魂の意味を持つ芸能の場になったといわれている。実際,このころも飢饉になると河原には死体が充満したのである。芸能だけでなく,河原ではしばしば飛礫(つぶて),印地といわれた石合戦も行われた。
室町期には河原に住む人々の葬送,細工などの諸職能も分化してくる。とくに土木工事に携わるとともに築庭の芸能をもって知られる集団が現れ,禁裏河原者,公方御庭者などとして,給恩の土地を保証されて百姓から白砂・夫役を弁済させるような特権を持つ人もあった。善阿弥もその一人であるが,反面この時期には河原者に対する差別もしだいに固定化してくる。ただ河原とこうした差別との関係は地域によって異なり,東日本では全体として希薄である。江戸時代にも河原は葬地としての機能を失っていないが,京の四条・五条の河原はもっぱら遊楽の場となり,大道芸が行われ,芝居小屋が立ち並んだ。河原での涼みも京の人々の楽しみの一つであった。
→河原者
執筆者:網野 善彦
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鳥取県東部、八頭郡(やずぐん)にあった旧町名(河原町(ちょう))。現在は、鳥取市の南部を占める地域。1926年(大正15)町制施行。1955年(昭和30)国英(くにふさ)、八上(やかみ)、西郷、散岐(さぬき)の4村と合併。2004年(平成16)国府(こくふ)町、用瀬(もちがせ)町、気高(けたか)町、鹿野(しかの)町、青谷(あおや)町、福部(ふくべ)村、佐治(さじ)村とともに鳥取市に編入。JR因美(いんび)線、国道53号が通じる。旧町域は千代(せんだい)川とその支流の八東(はっとう)川、私都(きさいち)川、曳田(ひけた)川の合流点付近に開ける。主産業は農業で、稲作のほか、富有(ふゆう)ガキ、二十世紀ナシ、シイタケなどの栽培が盛ん。また、千代川はアユ釣りが盛んでアユ料理は町の名物である。中心の河原は上方(かみがた)往来に沿った茶屋集落から発達し、酒造で知られた。八上地区の売沼神社(めぬまじんじゃ)は『古事記』の「因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)」神話に出る八上比売(やかみひめ)を祀(まつ)る。牛戸(うしと)地区は民芸の焼物牛ノ戸焼の発祥地。曳田川上流には県指定名勝の三滝渓(みたきけい)がある。
[岩永 實]
『『河原町誌』(1986・河原町)』
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