カリブ(英語表記)Carib

翻訳|Carib

改訂新版 世界大百科事典 「カリブ」の意味・わかりやすい解説

カリブ
Carib

カリブ系の言語を話す部族。現在では40余りが知られ,人口2万5000前後(1974)とされているが,かつては部族数も人口もさらに多いものであった。歴史的には南米大陸のギアナ地域に起源をもち,西インド諸島への進出もコロンブス到達より1世紀前を下らないと考えられている。以後先住者のアラワク系住民を追って小アンティル諸島から大アンティル諸島へと北上したと考えられる。カリブという語はすでに16世紀初頭の文献にも見られ(Caraiba),コロンブスの航海記にもCanibaの名で記されている。食人を表すカニバリズムcannibalismはこの語に由来している。しかしこれらはカリブ海地域に住む原住民という地理的な集団を語っているだけであり,言語集団としてのカリブのほかに島嶼アラワクを含んでいる。現在の分布は比較的限られており,小アンティル諸島のほか,ベネズエラ,ガイアナ,スリナム,フランス領ギアナ,ブラジル北部・中央部,コロンビア南東部のおもに南米大陸北部,アマゾン川本流以北を占めている。言語学上は北部カリブと南部カリブに二分されている。このような地理的なかたよりのため,文化的にも近似性が指摘されているが,孤立している島嶼部,沿岸部,シングー川低地,コロンビア南東部の諸族には例外性が強く,むしろ近隣の他文化との関係が見られる。共通に見られる特徴として,まず第1に主食としての有毒性マニオク(キャッサバ)への依存度の高さ,および毒抜き技術の発達があげられる。第2に,社会関係における共住集団や〈シンルイkindred(親族)〉の重要性があげられよう。第3にシャマニズムの重要性が指摘される。地域集団の内外を明確に区別するカリブ系諸族のシャーマンは外部からの害悪に対抗するために治療師,占い師,呪術師としての役割を演じる。この時用いられるタバコの重要性も共通する特徴である。このほか,村全体で行う宗教的儀礼の少なさ,思春期女性の隔離と,経血に対する忌避もあげられよう。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「カリブ」の意味・わかりやすい解説

カリブ

南米東海岸およびカリブ海の島に住む諸民族をさす総称。新大陸発見の100年前ごろからベネズエラから移住し,先住のアラワク人を征服し,小アンティル諸島全域およびトリニダード島の一部を占拠。15―16世紀に急速に衰退。果樹栽培と漁労を業としているが,好戦的でシャマン,守護精霊の信仰がある。もとスペイン語でカリブの意のCanibから食人風習cannibalismという言葉ができた。カリブ海という名称のもとともなった。
→関連項目アメリカ・インディアン

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「カリブ」の解説

カリブ(語族)(カリブ(ごぞく))
Caribe

南アメリカ北部から小アンティル諸島にかけて分布していた語族。元来,現ベネズエラからギアナ地方にかけて居住し,大部分は熱帯型の狩猟・採集・漁撈文化を持っていたものと考えられる。小アンティル諸島のカリブ人は,ヨーロッパ人の接触時に大アンティル諸島のタイノ農耕民を攻撃,略奪を行っていた。彼らが食人の習慣を持つと伝えられたところから,食人種(cannibal)という語が生まれた。植民地時代,カリブ人は小アンティル諸島に侵入してきたフランス人,イギリス人に強く抵抗した。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のカリブの言及

【アンティル[諸島]】より

…カリブ海を弧状にめぐる多数の島々からなり,カリブ諸島Caribbeesともいわれる。大アンティル諸島(キューバ,ジャマイカ,イスパニオラ島,プエルト・リコ),小アンティル諸島(バージン諸島からベネズエラ沖の島々まで)の総称であるが,これらとフロリダ半島南東のバハマ諸島を合わせて西インド諸島といわれる。…

【アメリカ・インディアン】より

…エスキモーは言語学的に東エスキモーと西エスキモーに分けられる。彼らの生業の基盤は冬の海におけるアザラシ猟と春・秋の内陸におけるカリブーの狩猟にあると考えられてきたが,最近では地域によりかなりの差異があることが判明している。
[亜極北文化領域]
 この領域は北方針葉樹林(タイガ)とほぼ一致し,アラスカ内陸のユーコン川,クスコキウム川の中・上流域からカナダ北東部のラブラドルまで広がる。…

【カニバリズム】より

…カニバリズムを報告する資料も無数にある。カニバル(食人者)という語は,コロンブスの報告によって,食人者だとみなされたカリブ族Caribsに由来している。スペイン人の発音の誤りからカリブがカニブとなり,そこからカニバルという語が生じたのである。…

【カリブ海】より

…東はトリニダード,トバゴ,バルバドス等の小アンティル諸島で大西洋と境され,北はキューバ,プエルト・リコ等の大アンティル諸島およびユカタン半島でメキシコ湾とへだてられる縁海。カリブ海とメキシコ湾を含めアメリカ地中海ともいう。面積はほぼ264万km2で日本海とオホーツク海を加えた面積とほぼ同じである。…

【セントクリストファー・ネビス】より

…正式名称=セントクリストファー・ネビスSaint Christopher and Nevis面積=269km2人口(1997)=4万2000人首都=バステールBasseterre(日本との時差=-13時間)主要言語=英語,パトア語通貨=東カリブ・ドルEast Caribbean Dollarカリブ海,小アンティル諸島のリーワード諸島に属するセント・キッツ島とネビス島からなる連邦国家。〈セントキッツ・ネビス〉とも称する。…

【セントビンセントおよびグレナディン諸島】より

…正式名称=セントビンセントおよびグレナディン諸島Saint Vincent and the Grenadines面積=389km2人口(1997)=11万9000人首都=キングズタウンKingstown(日本との時差=-13時間)主要言語=英語通貨=東カリブ・ドルEast Caribbean Dollarカリブ海の東方,小アンティル諸島内のウィンドワード諸島南部に位置する30以上の島々からなる群島国家。主島のセント・ビンセント島は東西15km,南北30kmの火山島で,北部にそびえる活火山スフリエール山(1284m)は,1902年の大爆発後,79年4月に再び噴火し,全島の3分の1が火山灰におおわれるなど,大きな被害があった。…

【ドミニカ連邦】より

…正式名称=ドミニカ(ドミニカ国)Commonwealth of Dominica面積=750km2人口(1996)=7万3800人首都=ロゾーRoseau(日本との時差=-13時間)主要言語=英語通貨=東カリブ・ドルEast Caribbean Dollarカリブ海の小アンティル諸島に位置する島国。北隣にはフランス領のグアドループ島が,また南隣には同じくフランス領のマルティニク島がある。…

※「カリブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android