カルビン回路(読み)カルビンカイロ(英語表記)Calvin cycle

デジタル大辞泉 「カルビン回路」の意味・読み・例文・類語

カルビン‐かいろ〔‐クワイロ〕【カルビン回路】

光合成の過程で行われる暗反応経路カルビンサイクルカルビンベンソン回路

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精選版 日本国語大辞典 「カルビン回路」の意味・読み・例文・類語

カルビン‐かいろ‥クヮイロ【カルビン回路】

  1. 〘 名詞 〙 光合成の暗反応の諸過程。炭酸ガスが固定され種々の糖類を合成する経路をいう。カルビン[ 二 ]の名にちなむ。

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改訂新版 世界大百科事典 「カルビン回路」の意味・わかりやすい解説

カルビン回路 (カルビンかいろ)
Calvin cycle

カルビン=ベンソン回路,還元型ペントースリン酸回路または炭素還元回路ともいう。光合成過程を明反応と暗反応に大別した場合の暗反応に相当するもので,明反応で作られたエネルギーを用いて炭酸固定を行う回路。1946年,カリフォルニア大学でM.カルビンのグループは,放射性同位体14CO2を用いて光合成の炭酸固定経路の研究に着手し,54年には今日知られているこの回路の骨子を明らかにした。彼らの研究は最初,単細胞緑藻を用いて行われ,その結果はその後多くの植物についてもあてはまることがわかった。1965年にはハワイのコーチャックH.P.Kortschakがサトウキビを用いて,C4ジカルボン酸回路を発見したが,この回路をもつ植物の炭酸固定経路の一部にもなっており,その場合はカルビン回路は維管束鞘(いかんそくしよう)細胞の葉緑体中にある。

 反応経路を図1に示し,炭素数の変化を図2に示す。

(1)CO2固定から還元まで 3分子のCO2が3分子のリブロース-1,5-二リン酸(RuBPまたはRuDPと略記,炭素数5)とそれぞれ反応しC6の中間体を経て6分子の3-ホスホグリセリン酸(グリセリン酸-3-リン酸,PGAと略記,炭素数3)を生じる。これが回路の入口に相当する炭酸固定反応である。6分子のPGAは6分子のATPアデノシン三リン酸)によってリン酸化されホスホリルホスホグリセリン酸(グリセリン酸-1,3-二リン酸)となる。これが6分子のNADPH(還元型ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチドリン酸)と反応し6分子のグリセロアルデヒド-3-リン酸(GAPと略記,炭素数3)となる。この反応が回路中の唯一の還元反応である。

(2)組みかえ反応 (a)2分子のGAPは2分子のジヒドロキシアセトンリン酸(DHAPと略記,炭素数3)となり,そのうちの1分子がGAPと縮合してフルクトース-1,6-二リン酸(炭素数6)となり,次いでフルクトース-6-リン酸(F6Pと略記,炭素数6)となる。F6Pはチアミンピロリン酸TPPと略記)の存在下でトランスケトラーゼの働きで,エリトロース-4-リン酸(E4Pと略記,炭素数4)とTPP-グリコールアルデヒド付加化合物(TPP-GA,GAの炭素数2)となる。(b)残りもう1分子のDHAPはE4Pと縮合してセドヘプツロース-1,7-二リン酸(炭素数7)となり,次いでセドヘプツロース-7-リン酸(S7Pと略記,炭素数7)となる。S7Pはリボース-5-リン酸(R5Pと略記,炭素数5)とTPP-GAとに分かれる。これで2分子のTPP-GAができることになる。これが2分子のGAPとそれぞれ縮合して2分子のキシルロース-5-リン酸(炭素数5)となり,次いで2分子のリブロース-5-リン酸(Ru5Pと略記,炭素数5)となる。さきに生じた1分子のR5PもRu5Pとなる。これで合計3分子のRu5Pができた。これが3分子のATPによりリン酸化されて3分子のRuBPとなり回路は完結する。

 C3の化合物からC5の化合物への再編成の途中には,ペントースリン酸回路と共通な代謝中間産物が出現するが,ペントースリン酸回路は酸化反応を含むのに対し,カルビン回路は還元反応を含むので,還元型ペントースリン酸回路ともいう。

 この回路は葉緑体のストロマに存在する。上記は回路として閉じた形で回っている場合について説明したが,実際にはこの回路はGAPまたはブドウ糖だけを作るために働いているのではなく,回路上のいくつかの化合物は葉緑体包膜を透過して細胞質へ出てゆき,葉緑体の外で行われるα-ケト酸合成のための素材を提供するという重要な役割をも果たしている。

 3分子のCO2が固定され回路が一巡する場合,6分子のNADPHと9分子のATPが消費されるが,これらは葉緑体のチラコイドで行われる明反応で作られ供給される。この回路のいくつかの酵素,RuBPカルボキシラーゼ,GAP脱水素酵素,FBPジホスファターゼ,SBPジホスファターゼ,Ru5Pキナーゼは光によって活性化される。そのメカニズムは種々の様式があり,最近の研究ではそれぞれのメカニズムが解明されつつある。この調節機構は,光が強くなったとき,明反応からNADPHとATPの供給が高まるのに対し,これに応じて暗反応の速度をも大きくし暗反応が律速的にならないようにするしくみとして興味深い。
光合成
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百科事典マイペディア 「カルビン回路」の意味・わかりやすい解説

カルビン回路【カルビンかいろ】

還元型ペントースリン酸回路,カルビン=ベンソン回路とも,光合成の明反応に相当する炭酸固定回路。次の3段階よりなる。1.3分子のCO2が3分子のリブロース-1.5-二リン酸(RuBP)と反応して6分子の3-ホスホグリセリン酸ができる。2.これが6分子のATPおよびNADPHによって還元されて6分子のグリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)になる。3.GAP5分子からリブロース-5-リン酸3分子がつくられ,その過程でRuBPが再生される。還元段階で生じるGAPの一部からショ糖が作られ,CO21分子が炭水化物になるのにATP3分子とNADPH2分子が必要。この回路は葉緑体のストロマに局在する。
→関連項目C3植物

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栄養・生化学辞典 「カルビン回路」の解説

カルビン回路

 還元的ペントースリン酸回路,ケルビン回路,カルビン-ベンソン回路,炭酸還元回路ともいう.C3植物の光合成で,炭酸固定反応から炭酸受容体の再生までの循環過程.

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世界大百科事典(旧版)内のカルビン回路の言及

【光合成】より

…CO2濃度も光と同じように光合成速度との間に双曲線的な関係をもち,〈CO2補償点〉つまり純光合成速度が0になるCO2濃度が存在する。
[C4回路]
 光合成の炭酸固定系にはカルビン回路とC4ジカルボン酸回路(C4回路)の2種類がある。前者をもつ植物(C3植物)はRuBPCによってCO2固定を行う。…

※「カルビン回路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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