哺乳(ほにゅう)綱有袋目カンガルー科に属する動物の総称。この科Macropodidaeには約15属65種が含まれる。また、狭義にはそのうちのカンガルー属に含まれる大形種をさす。オーストラリア、タスマニア島、ニューギニア島およびその周辺の島に分布する。
〔1〕カンガルー属Macropus 典型的なカンガルーの仲間で、ワラビーの仲間に比べると体が大きく、7種が含まれる。(1)アカカンガルーM. rufus 東端、西端、北端および東岸の山岳地帯を除き、オーストラリアのほとんどどこにでも分布する。カンガルー科中最大のものの一つで、頭胴長は1.3~1.6メートル、体の上面は栗(くり)色または鮮やかな赤褐色であるが、雌では青みを帯びた灰色の場合が多い。広い草原に10頭ぐらいの小群で生活し、普通、夕方から夜にかけてと明け方に活動して草を食べる。(2)オオカンガルーM. giganteus 別名ハイイロカンガルー。サウス・オーストラリア州の南東からクイーンズランド州のヨーク岬までと、ウェスタン・オーストラリア州の南西部やタスマニア島に分布する。アカカンガルーとともにカンガルー科のなかでは最大のものの一つで、頭胴長は1.1~1.5メートル、体重は雄で80キログラムに達する。雄が雌よりも大きい。体の上面は灰色または灰色を帯びた褐色である。おもに開けた草原の森林地帯に群れで生活し、夕方から明け方にかけて活動して草を採食する。(3)クロカンガルーM. fuliginosus オーストラリア南岸のカンガルー島のみに分布する。頭胴長は1.1~1.6メートルに達する。開けた草原の森林に生息する。(4)ケナガワラルーM. robustus オーストラリア南東部の山地や丘陵の岩石地に生息し、小さな群れで生活し、草、地下茎、根などを食べている。頭胴長は75センチメートル~1.3メートル。体は頑丈で、後ろ足は比較的短く、岩場に生息するのに適応し、足の裏には粗い顆粒(かりゅう)がある。このほかワラルーwallarooの英名でよばれる仲間には、アカワラルーM. antilopinus、ヒメワラルーM. isabellinus、クロワラルーM. bernardusがいる。
〔2〕ワラビー属Protemnodon この仲間には9種があり、外形はカンガルー属によく似ているが、小形でさらに優美で、色彩も鮮やかで美しいものが多い。上あごの第3門歯に1個の縦溝があり、臼歯の前端に隆起があることからカンガルー属と区別される。大きさは種により異なり、頭胴長は50センチメートル~1メートル。オーストラリア、タスマニア島、ニューギニア島に分布し、沼沢地や低木林地に小群で生活し、草や木の葉を食べる。
〔3〕ウサギワラビー属Lagorchestes オーストラリアとその沿岸の小島に分布するウサギ大のワラビーで、5種が含まれ、草食性である。
〔4〕イワワラビー属Petrogale オーストラリアとその付近の小島に分布し、11種が知られる。岩地に生息するのに適応した小形のワラビーで、足の裏には粗い顆粒があり、周りに硬い毛が生えていて、岩地を歩くのに適している。
〔5〕ツメオワラビー属Onychogalea オーストラリアに3種が分布する。尾の先端に角質のけづめまたは平づめ状のものがある。
〔6〕ヤブワラビー属Thylogale オーストラリアとその周辺の島、タスマニア島、ニューギニア島に8種が分布する。
〔7〕クアッカワラビー属Setonyx この属は1種だけで、オーストラリアとその周辺の島に分布する。原始的な小形のカンガルーの仲間で、頭胴長は25~30センチメートルである。
〔8〕キノボリカンガルー属Dendrolagus ニューギニア島とオーストラリア北部に分布する樹上生の仲間である。
〔9〕ドルコプシス属Dorcopsisとヒメドルコプシス属Dorcopulus 両属ともニューギニア島に分布し、2種ずつを含む。外形はワラビーに似ているが、前足と後ろ足の長さの差が少ない。
〔10〕ネズミカンガルー属Potorous オーストラリア、タスマニア島に3種が分布する。巣材などを巻き付けて運ぶ習性がある。近縁のものに、フサオネズミカンガルー属Bettongia、アカネズミカンガルー属Aepyprymnus、サバクネズミカンガルー属Caloprymnusがある。
〔11〕ニオイネズミカンガルー属Hypsiprymnodon この属は1種だけで、オーストラリア東部に分布する。もっとも原始的な小形の種で、頭胴長は25センチメートル。他種と異なり、後ろ足に第1指がある。
[中里竜二]
大形種の肉は食用になり、皮は皮革としてきめが細かくじょうぶであるので、高級靴などに使用される。毛の深いものやカンガルー属の子は毛皮としても利用される。また、カンガルーという名の由来は、従来は原住民のことばで「私は知らない」の意味であるといわれていたが、最近では原住民が本来カンガルー類をさすことばからきたとの説が有力である。
[中里竜二]
『今泉吉典・小原秀雄著『世界哺乳類図説 単孔目・有袋目』(1966・新思潮社)』▽『フリス・カラビー著、白石哲訳『世界動物記シリーズ5 カンガルー』(1974・思索社)』