穀物の生産地において、穀物の集荷、乾燥、選別、貯蔵などを行う施設。穀物収穫期の過重労働を回避するための合理化、生産・流通費の低コスト化、高品質で大量均質な穀物の供給、組織生産の促進を目的とする。
アメリカの農村地帯で穀物を貯蔵サイロに入れるためのバケットエレベーターが天高くそびえている姿が、港湾で船に穀物を搬入する施設であるターミナルエレベーターに似ていることから、カントリーサイドにあるエレベーターということで名づけられたとされている。日本では米麦をばら貯蔵する施設をもった大規模な共同乾燥調整貯蔵施設に対して、この名を用いる。本項では、日本におけるカントリーエレベーターについて解説する。
1963年(昭和38)ごろから建設され、1988年から1996年(平成8)の建設ピークがあり、2012年(平成24)の時点で881基が稼働し、貯蔵能力も約250万トンに達している。1施設の穀物貯蔵量は、2000トンまたは3000トン(対象面積約300~450ヘクタール)であるが、北海道などでは1万トン規模の施設も存在する。
主要な設備は、高さ20~30メートルでコンクリートまたは鋼板製の縦型のサイロが6~12本、穀物を荷受けするための荷受設備、穀物乾燥機、選別機、出荷設備である。これらの機械・設備は横搬送のベルトコンベヤーや縦搬送のバケットエレベーターで連結され、穀物が自動的に移動できるようになっており、施設の運転は操作室で集中的にコンピュータ制御できる。ベルトコンベヤーやバケットエレベーターはネズミ対策のために密閉型のものが多い。粉塵爆発(ふんじんばくはつ)の防止や周辺環境への配慮から、設備全体に湿式の集塵装置が装備されている。
乾燥については、連続送り式の乾燥機に何回も穀物を通過させて小刻みに水分を下げ、乾燥と休止を繰り返すテンパリング方式が多かったが、乾燥機の中で乾燥と休止を繰り返すことができる循環式乾燥機が増えている。循環式は連続送り式に比べ処理量は少ないが、建設コストが低いことや省エネルギーであるメリットがある。また、さらなる省エネルギー化や生産穀物の高品質化をねらい、遠赤外線乾燥機、乾燥した籾殻(もみがら)を水分吸着剤として使用した籾殻混合乾燥機、灯油のかわりに籾殻を燃焼したときの熱を利用した乾燥機、エアコンのような空調機を用い除湿空気をサイロ内に送風する除湿乾燥機なども登場している。
選別機は、風や振動でほこりや異物を取り除く風力選別機と比重選別機、穀粒の大きさで未熟粒を選別する粒厚選別が主流であるが、1990年代に入ると、これらの選別機のほかに、光学センサーを使って色による選別を行う色彩選別機を導入する施設も多くなった。
このほかの穀物乾燥施設には、カントリーエレベーターよりも小規模で、貯蔵サイロを設置せずに、個人用の乾燥機や選別機を複数台組み合わせたライス・センターという施設もある。
[日高靖之]
穀物乾燥調製貯蔵施設のことで,コンバインで収穫した生もみを火力乾燥機によって所定の水分含有率にまで低下させ,もみのまま貯蔵し,必要に応じてもみすり調製した玄米を所定の規格に包装して出荷するためにつくられる。サイロ状の貯蔵庫をもつのが特徴である。最近は1基250t収容できるサイロを数基組にして,数百ha分のもみを貯蔵できるものも建設されている。建設費が巨額に達するので国からの補助がある。サイロ状の貯蔵庫が高くそびえ立っている点,アメリカやカナダの穀作地帯にみられる貯蔵調製施設カントリーエレベーターcountry elevatorと外見上よく似ているためこの名があるが,正式には大規模乾燥調整貯蔵施設という。日本では1964年石川県吉田農協,新潟県白根農協および秋田県高梨農協の3ヵ所に建設されたのが最初である。構造改善事業により圃場(ほじよう)が大型化したことや労働力の不足から収穫の機械化が進み,コンバインで収穫された高水分のもみが短期間に集中し,従来の乾燥機では容量が不足してきた。そこで乾燥機の能力を高め,もみのまま貯蔵することによって,乾燥・貯蔵に要する労力とコストの節減を企図したものである。もみ貯蔵は玄米貯蔵に比較して食味の低下が小さい利点はあるが,もみは容積が大きいこと,施設の建設費が高いわりに年間の利用率が低いなどの問題がある。アメリカやカナダでは,穀物の大量輸送のための中継基地として利用しているため,年間では貯蔵容量の数倍もの穀物を貯蔵することができるという。類似の施設にライスセンターがある。
執筆者:松崎 昭夫
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