日本大百科全書(ニッポニカ) 「穀物乾燥機」の意味・わかりやすい解説
穀物乾燥機
こくもつかんそうき
収穫した穀物の乾燥を人工的に行う機械。適期に収穫した穀物には、水分が米で24%、小麦で28%程度残っており、貯蔵性向上や品質の保持のために、米で15%、小麦で12.5%まで乾燥させる必要がある。水分20%の米を堆積(たいせき)したまま放置しておくと4時間でカビが発生するため、収穫後の乾燥は非常に重要な作業である。かつては株元から刈り取って、圃場(ほじょう)で自然乾燥させたのちに脱穀していたが、刈取り時に脱穀を行うコンバインの普及(1970年以降)により、1999年(平成11)には92%の農家が穀物乾燥機を利用するに至った。
米の自然乾燥は天候や地形の影響を受け1か月以上かかる場合もあるが、人工乾燥では全国どこでも12時間程度で乾燥できる。しかも水分のばらつきも少なく、均質な穀物生産が可能となる。乾燥方法としては、均平に堆積された穀物に常温または加熱された空気を送る方法がとられ、加熱空気を通風するものがほとんどである。加熱空気は灯油等の化石燃料を燃焼した熱風を外気と混合し通風する。過度な高温による急速乾燥は、穀粒に亀裂が入る胴割れ(どうわれ)や、脂質、デンプンの変質を招くため、加熱空気の温度は外気温度にもよるが40~50℃で、乾燥速度は毎時0.8%前後である。
構造には、穀物を動かさない静置式乾燥機、穀物を循環させる機構を持つ循環式乾燥機、穀物を連続的に供給し乾燥されたものを連続的に排出する連続送り式乾燥機がある。日本では1953年(昭和28)に静置式乾燥機が開発されたが、コンバインの能力向上とともに狭い設置面積で大量の米を乾燥させる必要が生じてきたため、循環式乾燥機が独自開発されてきた。そのため、循環式乾燥機の割合が非常に多い。循環式乾燥機は自動化が進められ、水分計、温度計等の種々のセンサーでモニタリングしながら乾燥制御が行われている。また、風圧センサーや耐震センサー等の安全装置も充実している。
また日本では、第二次世界大戦前から研究されてきた輻射伝熱(ふくしゃでんねつ)を利用した遠赤外線乾燥機が、1998年に実用化され、2013年(平成25)の時点で市場の約4割がこの乾燥機に入れ替わっている。循環式乾燥機を改良したもので、灯油の燃焼熱の35~55%を遠赤外線に変換して照射するとともに排熱も利用するため、加熱空気だけのものに比べ、10%以上省エネルギーである。
このほかに、乾燥した籾殻(もみがら)等を水分吸着剤として利用する混合乾燥機、空調機器を利用して除湿した空気を送風する除湿乾燥機、灯油のかわりに籾殻燃焼炉を用いた乾燥機もあるが、いずれもカントリーエレベーター用で台数は少ない。
ちなみに、穀物乾燥機の処理能力を示す単位には、尺貫法の単位である「石(こく)」を用いる。この場合「1石=100キログラム」である。たとえば、「60石の乾燥機」といえば「6トンの穀物が処理できる乾燥機」を表す。
[日高靖之]