カンピロバクター感染症

内科学 第10版の解説

カンピロバクター感染症(Gram 陰性悍菌感染症)

(10)カンピロバクター感染症(Campylobacter spp.infection)
定義・概念
 カンピロバクター属(Campylobacter spp.)の細菌による感染症である.
原因
 カンピロバクター属はグルコースを発酵しオキシダーゼ反応陰性の腸内細菌科に属する螺旋型をしたGram陰性桿菌で,臨床的にはCampylobacter jejuni,C. coliおよびC. fetusが代表的な菌種である.C. jejuni,C. coliは主として腸管感染症の原因菌であり,C. fetusはおもに腸管外感染症の原因菌である.
疫学・統計的事項
 食中毒統計によれば,発生件数と患者数において,カンピロバクター食中毒は最近の細菌性食中毒の第一位を占めており,C. jejuni あるいはC. coliによる食中毒患者数は年間2000~2300人と報告されている(厚生労働省).しかし,食中毒としてではなくカンピロバクターによる感染性腸炎と判断されれば届け出られることがなく,しかもカンピロバクター腸炎の患者数は食中毒として届け出られる数よりも多いと推測されている.また,食中毒でなければC. fetus感染症にも届け出義務がない.そのため,実際のカンピロバクター感染症の患者数は不明である.なお,カンピロバクター腸炎は国内感染のみでなく,輸入感染症としても患者が発生している.
感染経路
 カンピロバクター属の感染経路は経口感染である.C. jejuniやC. coliは同菌に汚染された肉類の摂取で感染する症例が多い.C. jejuniはニワトリ,ウシ,ヒツジなどの腸管内に広く常在菌として保菌されており,特に鶏肉やウシの肝臓を生あるいは加熱不十分な状態で摂取することによる感染がよく知られている.C. jejuniは100個程度の少量の菌量でも感染し発症すると考えられている.C. coli はブタでの保菌率が高いことが知られている.C. fetus感染症も同菌に汚染された肉類(特に肝臓)を生や加熱不十分な状態で摂食することや,動物との接触による感染が主原因と考えられている.
病態生理
 カンピロバクター属の発症機構は不明である.カンピロバクター属の代表菌種であるC. jejuniはエンテロトキシンなどの毒素関連物質を産生するとの報告もあるが,血中に抗体が出現することと腸管粘膜に炎症がみられることから,C. jejuniは腸管粘膜へ侵入しそのことが発症の主たる機序であろうと推測されている.
臨床症状
1)腸管感染症:
上述したようにC. jejuni,C. coliが主要原因菌である.特にC. jejuniによる感染例が多い.主症状は下痢で,血便や高熱を伴うことも多い.発症当初は泥状あるいは水様便で,時間の経過とともに血便となる.しかし,症状の種類や程度は症例によって差異がある.C. jejuniによる腸炎の潜伏期は2〜8日とされている.
2)腸管外感染症:
C. jejuni,C. coliも腸管外感染症の起因菌となり得るが,C. fetusが敗血症,髄膜炎,心内膜炎,心外膜炎,腹膜炎,虫垂炎,蜂窩織炎,壊死性筋膜炎,骨髄炎,関節炎,尿路感染症など多彩な腸管外感染症の原因となる.悪性腫瘍,肝硬変,糖尿病,HIV感染症などの免疫障害を引き起こす疾患がある人に多く発生する傾向がある.
検査成績
 一般的な血液検査でカンピロバクター感染症に特異的な検査成績はない.腸管感染症,腸管外感染症ともに末梢血の白血球数や血清CRP値増加を認めることが多いが,特に腸管外感染症でその傾向が強い.
診断
 臨床症状から確定診断することは不可能である.患者の検体(下痢患者では便,発熱患者では血液など)からカンピロバクター属の菌を分離することで確定診断する.
合併症
 C.jejuni感染症に合併するGuillain-Barré症候群が知られており,下痢を発症して1〜3週後に出現する.神経系のGM1-ガングリオシドはC. jejuniの外膜リポ多糖体と共通する構造を有しており,C. jejuni感染により産生されたIgG抗体が神経系のGM1-ガングリオシドにも結合することが原因と推定されている(古賀ら,2003).その他の合併症としてブドウ膜炎,溶血性貧血,脳症,HLA B27を有する患者における関節炎などがある.なお,C. jejuni以外ではサイトメガロウイルスなどがある.
治療・予後
1)C. jejuniやC. coliによる腸炎:
一般的に予後は良好で多くは自然に改善し,対症療法のみで抗菌薬の投与を必要としないことが多い.中等から重症者,易感染者,二次感染を起こす可能性のある集団生活者,保菌状態のため就業制限を受けている感染者に必要があって抗菌薬を投与する場合は,マクロライド系抗菌薬を使用する(成人患者への投与例:エリスロマイシン 200 mg/回,1日4回,3~5日間経口投与,クラリスロマイシン200 mg/回,1日2回,3~5日間経口投与など).フルオロキノロン系抗菌薬に対し耐性化を短時間で獲得するため,C. jejuniやC. coliによる腸炎と判明している症例には,フルオロキノロン系抗菌薬を投与しない.
2)C. fetus感染症:
免疫能が障害された人にみられることが多く,通常は抗菌薬を投与する.以前はエリスロマイシンやゲンタマイシンが使用されていたが,最近ではカルバペネム系抗菌薬が使用される場合が多い.
予防
 家族や他人への感染を防止する目的で,感染者には手洗いの励行を勧める.医療従事者も自己への感染や院内感染などを防止するために,手洗いを行う.さらに糞便で汚染された物体に触れる可能性があれば手袋を着用し,手袋を脱いだ後にも手洗いを行う.
法的対応
 食中毒と診断した場合は,食品衛生法の規定により直ちに(24時間以内に)保健所へ届け出る.[大西健児]
■文献
古賀道明,結城伸泰:Campylobacter jejuni腸炎とギラン・バレー症候群.感染症学雑誌,77: 418-422,
2003.厚生労働省:病因物質別月別食中毒発生状況. http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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