ぶどう膜炎(読み)ぶどうまくえん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ぶどう膜炎」の意味・わかりやすい解説

ぶどう膜炎
ぶどうまくえん

ぶどう膜は虹彩(こうさい)、毛様体、脈絡膜の三つからなり、色素と血管に富むので遮光に役だち、眼球の栄養をつかさどる。毛様体には調節を行う毛様体筋も含まれている。これらぶどう膜の炎症総称してぶどう膜炎という。ぶどう膜炎は病変の存在部位により虹彩毛様体炎を前部ぶどう膜炎、脈絡膜炎を後部ぶどう膜炎といい、両者はともに、または相前後して発症し、単独でもおこる。ぶどう膜炎の原因の多くは、外傷を除くとなんらかの全身的異常が背景にあると考えられ、そこから起炎因子が血行を介してぶどう膜に到達し、ぶどう膜炎となる。ぶどう膜炎はベーチェット病原田病サルコイドーシス結核、梅毒、アレルギー性疾患、リウマチその他の全身病でおこり、ウイルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫など多くの原因でおこる。原因不明のものも多い。眼底の黄斑(おうはん)や視神経を含む後極部の病変では、視力低下は著しい。高度の炎症では消炎後も眼底に萎縮(いしゅく)巣や変性、血管の白線化、視神経萎縮などを残し、硝子体(しょうしたい)混濁、併発白内障、続発緑内障その他の合併症の数も多く、なかには眼球癆(ろう)となって失明するものもある。

 原因の明らかなものには原因療法を行い、前部ぶどう膜炎にはアトロピンその他の散瞳(さんどう)薬とステロイド剤点眼する。視力障害が高度な脈絡膜炎や前部ぶどう膜炎でも重症なものには、ステロイド剤の球結膜下注射や内服をする。ぶどう膜炎にはステロイド剤がよく用いられるが、副作用も多いので慎重に使用する。

[小暮美津子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

六訂版 家庭医学大全科 「ぶどう膜炎」の解説

ぶどう膜炎
ぶどうまくえん
Uveitis
(代謝異常で起こる病気)

 ぶどう膜は虹彩、毛様体(もうようたい)脈絡膜(みゃくらくまく)で構成され、眼球組織のなかでは最も血管と色素に富む組織です。ぶどう膜炎は糖尿病眼合併症としては比較的まれですが、しばしば瞳孔領(どうこうりょう)にフィブリン膜を形成し、急激に発症する虹彩炎(こうさいえん)(前部ぶどう膜炎)と同様の症状が現れます。多くは血糖コントロールが不良の状態で発症します。

 細隙灯顕微鏡検査で診断されます。症状としては充血、霧視(むし)(霧がかかったように見える)、眼痛、流涙、視力の低下などが認められます。放置すると虹彩後癒着(こうゆちゃく)緑内障(りょくないしょう)などを引き起こすことがあります。治療法としてはもちろん血糖コントロールが基本ですが、眼科的には消炎、癒着解離(かいり)を目的としたステロイド薬や散瞳薬(さんどうやく)の点眼が主体になります。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「ぶどう膜炎」の解説

ぶどうまくえん【ぶどう膜炎 Uveitis】

[どんな病気か]
 ぶどう膜とは、虹彩(こうさい)、毛様体(もうようたい)、脈絡膜(みゃくらくまく)の総称です。ぶどう膜に炎症のおこるのがぶどう膜炎であり、虹彩・毛様体が炎症の主体である場合を虹彩(毛様体)炎(前部ぶどう膜炎)、脈絡膜炎が主体である場合を後部ぶどう膜炎と呼びます。また、ぶどう膜全体が炎症を生じている場合を汎(はん)(全)ぶどう膜炎あるいは眼内炎(がんないえん)と呼びます。
 脈絡膜の炎症は網膜(もうまく)、硝子体(しょうしたい)におよんだり、また、網膜血管炎をともなったりする場合があります。その結果、硝子体が混濁(こんだく)したり、黄斑部(おうはんぶ)(ものを見る中心)の網膜が浮腫(ふしゅ)や循環障害をおこすために、かすんだり、ものがゆがんで見えたりするようになります。
[検査と診断]
 細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)で前房(ぜんぼう)や硝子体(しょうしたい)に炎症細胞が認められます。また、眼底検査により、硝子体の混濁、網膜の浮腫、滲出斑(しんしゅつはん)、出血などが見られます。
[治療]
 虹彩炎をともなう場合はステロイドや散瞳薬(さんどうやく)の点眼が行なわれます。脈絡膜や網膜の炎症が著しく、視力低下をきたしている場合や、その恐れがある場合は、眼球結膜下(がんきゅうけつまくか)へのステロイド注射やステロイドの全身投与(内服、静注)が必要となります。しかし、ぶどう膜炎の原因(コラム「ぶどう膜の病気の原因」)によって治療方法は異なりますので、眼科医の診察を受ける必要があります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ぶどう膜炎」の意味・わかりやすい解説

ブドウ膜炎
ブドウまくえん
uveitis

虹彩,毛様体,脈絡膜の炎症の総称。約半数は原因不明であるが,病因または病型がわかるものとしては,ベーチェット病,サルコイドーシス,原田病 (毛髪,皮膚,内耳,脳膜などの色素のある部分を侵す全身病で,眼ではブドウ膜の障害が起る。長崎の眼科医原田永之助が初めて記載した) ,トキソプラズマ症などがある。症状は,視力障害を訴え,羞明 (まぶしい) ,眼痛などの刺激症状を伴うことがある。細隙灯顕微鏡によって前眼房や硝子体の混濁を認めたり,眼底に混濁や腫脹がみられれば,診断は可能。原因によっては全身症状を伴うこともある。治療はアトロピンの点眼と副腎皮質ホルモンの全身および局所投与であるが,原因の明らかなものには原因療法を行う。

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世界大百科事典(旧版)内のぶどう膜炎の言及

【ぶどう膜(葡萄膜)】より


[ぶどう膜の病気]
 ぶどう膜は炎症を起こしやすい組織である。ぶどう膜炎uveitisは,炎症の中心あるいは強い部位に従って,脈絡膜炎choroiditis,虹彩炎iritis,毛様体炎cyclitisなどに分けられる。また炎症の過程により,外因性のものと内因性のものとに分けられる。…

【網膜】より

…かつて網膜炎と呼ばれた大部分が,診断法の進歩により炎症とは違う病態が解明されたことにより,この名が用いられるようになった。レチノパチーRetinopathieの名で呼ばれる狭義の網膜炎は現在ぶどう膜炎の一部として理解されている。
[糖尿病性網膜症]
 かつては腎性網膜炎とよばれたもので,成人以降に失明に至る疾患として重要であり,急激に増加していることも事実である。…

※「ぶどう膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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