ガロアムシ(英語表記)Galloisiana nipponensis

改訂新版 世界大百科事典 「ガロアムシ」の意味・わかりやすい解説

ガロアムシ
Galloisiana nipponensis

ガロアムシ目ガロアムシ科に属する昆虫地中にすむ特殊な昆虫の一つ。体はやや扁平で,細長く,淡赤褐色をしている。幼虫は乳白色。体型はケラコオロギのあいのこのようである。翅は退化してまったくない。体長20mm内外。頭部はクリの実形。触角は糸状で多節,頭胸部をあわせた程度の長さである。複眼は楕円形で小さく,単眼はない。口器はかむ型で,肉食である。前胸は大きい背板をもつが,中・後胸のそれは小さい。脚は歩行肢で,いずれも同じ形をし,跗節(ふせつ)は5節であるが,成虫では各節に付属片を発達させるようになる。腹端には多節の尾角をもつ。雄の肛上板は後方に突出しとがり,雌では腹端に短剣状の産卵管をもち,原始的な昆虫を思わせる。本州分布し,主として山地の森林帯にすみ,小昆虫を捕食する。地中性で,大きな石の下などによく見られる。行動は敏しょうで,光をきらい,低温高湿の土地を好む。ほとんど一年中成虫,幼虫とも見られ,卵から成虫までの成育期間は7年内外を要するとみられている。

 この種は,1915年,日光中禅寺フランス人の駐日外交官ガロアE.M.Galloisによって初めて採集されたが,その少し前にこの虫の仲間がカナダで発見されており,この原始的な形態をもった昆虫がカナダと日本という奇妙な分布のしかたを示したことが注目をあびた。なお,和名および学名属名は,発見者にちなんで命名された。

 ガロアムシ目Grylloblattodeaの昆虫は,いずれも扁平で細長く翅がない。どの種もおよそガロアムシと同じ形をしている。ただし,複眼は地中や暗所への適応の程度により,退化したり,まったく欠いたりする。とくに洞窟に適応した種類ではこの傾向が強い。本目はガロアムシ科Grylloblattidae1科のみよりなり,雄交尾器の不相称性と雌の産卵管の形状などから古網翅類に近縁で,ゴキブリ類との関連があると考えられ,一方,直翅目ともきわめて近い位置にある。翅を欠くのは地中への適応によるものと考えられる。日本をはじめ朝鮮半島,沿海州,北アメリカ北西部に分布している。日本からは,ガロアムシのほか,ヒメガロアムシG.yuasai,オオガロアムシG.kiyosawai,エゾガロアムシG.yezoensisなどが知られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガロアムシ」の意味・わかりやすい解説

ガロアムシ
がろあむし

昆虫綱ガロアムシ目ガロアムシ科の昆虫の総称、またはそのうちの1種。かつてはコオロギモドキともよばれた。ガロアムシ類は、いずれも黄褐色ないし褐色で、体表に金色の細毛を備えた、無翅(むし)で、扁平(へんぺい)細長の昆虫である。体長17~22ミリメートル。かむ型の口器をもち、触角は比較的長い。複眼は退化傾向にあり、まったく目を欠くものもある。肢(あし)はいずれも歩行肢(ほこうし)で、跳躍肢をもたない。跗節(ふせつ)は5節。腹端には多節の長い尾角をもち、雌では剣状の産卵管をもつ。幼虫期の体色は乳白色。成熟すると跗節の各節に1対の付属片を備えるようになる。主として標高1200メートルの森林中にすむが、平地にもおり、また洞窟(どうくつ)内にもみられる。地中性であるが、大きな石下に潜んでいることも多い。行動は敏捷(びんしょう)で、光を嫌う。また、湿気のある所を好み、高温も嫌う。肉食性である。種子島(たねがしま)以南を除くほぼ日本全土に分布し、5種が記載されている。また、この類は朝鮮半島からシベリアにかけて4種が知られ、北アメリカのロッキー山脈の北半にも分布し、約10種が記載されている。日本では本州に分布する。ガロアムシGalloisiana nipponensisが代表種。和名および属名などにつけられているガロアは、フランス人の外交官の名で、日本で初めてこの昆虫を日光の中禅寺(ちゅうぜんじ)で発見したのを記念し、名づけられたものである。

[山崎柄根]

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百科事典マイペディア 「ガロアムシ」の意味・わかりやすい解説

ガロアムシ

ガロアムシ目ガロアムシ科の昆虫の1種。体長20mm内外で,淡褐色。本州の山地の石の下,朽木中などの陰湿な場所にすむ。名は最初の発見者駐日フランス総領事E.H.ガロアに由来。ガロアムシ類は氷河時代の遺存昆虫として名高く,北アメカ北西部とアジア東部にのみ分布。すべて翅がなく,目もないか小さい。洞穴にすむ種類もある。

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