翻訳|chiasma
細胞が減数分裂を行う際に太糸期から第1分裂中期にかけて,対合した相同染色体は,長軸に沿って縦裂し計4本の染色分体chromatidとなる(図a)が,この4本の染色分体の間で互いに相手を交換してX字型を呈する部位がみられる(図b)。この部位をキアズマという。キアズマは交叉を意味するギリシア語に由来するが,図c,eのように一端でくっついている2本の染色分体が,キアズマの個所で交換されて,他端では別の染色分体とくっつくことがある。二価染色体にキアズマがいくつか生ずると,染色分体のキアズマ以外の部分が,図c,eのように環状に開出して隣どうしの環は相互に直角に交わるようになる。キアズマは相同染色体が二価染色体を形成している時期には染色体上に散在しているが,第1分裂後期に進むにつれて,動原体側から染色体の腕の末端へ移動して偏在するようになる(図d,f)。これをキアズマの末端化という。また対合した相同染色体の1ヵ所にキアズマができると,それに隣接した部分で次のキアズマ形成が影響を受ける。これをキアズマ干渉と呼ぶ。
キアズマの成因については諸説があるが,最も有名なのはキアズマ型説と呼ばれるものである。この説は1909年ヤンセンスF.A.Janssensによって提唱され,さらに29年ダーリントンC.D.Darlingtonによって発展をみた。この説では真のキアズマは相同な染色分体(非姉妹染色分体)の間に部分的交換つまり交叉がおこる結果あらわれると説明される。この場合,図cに示すように,黒色または白色で示した姉妹染色分体が分離せずに同じ側に向かって開くので,一面説とも呼ばれる(図c,d)。これに対して30年サクスK.Saxが,また34年シャープL.W.Sharpが二面説を提唱した。この説によると,対合した染色体の分離が進むにつれ,動原体を含む環状部では姉妹染色分体が組になり(図eの中央部),その隣の環状部では相同染色分体どうしが組になる(図eの矢印の外側の環状部)というように,二つの面で分離がおこると考える(図e,f)説である。いずれの説によってもキアズマと交叉の現象を矛盾なく統一的に説明することはできず,染色体の詳細な複製機構の解明がまたれる。
執筆者:阪本 寧男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
減数分裂の前期で、2本の対合した染色体は1個またはそれ以上の箇所で交差し、その部分で染色体の交換がおこる。このような染色体の交差個所がキアズマで染色体交差ともいう。減数分裂前期で相同染色体は対合して二価染色体となる。二価染色体はそれぞれ複製によって2本ずつの染色分体となり、結局1個の二価染色体は4本の染色分体からなっている。第一減数分裂で、二価染色体はその対合面または複製面で分かれるが、そのとき、対合した染色体間で交差がおこり、キアズマが生ずる。キアズマは相同染色体の交差によって生ずるという説はヤンセンスFrans Alfons Janssens(1863―1924)やダーリントンによって主張された。対合した染色体はキアズマの箇所で接着し、ほかの部分では離れているので、染色体にはいくつかの環状部がつくられる。その輪の開く面がどこでも還元的である、すなわち相同染色体間で開くというのが一面説(ダーリントン)で、これに対し動原体を含む環状部分は還元的に開くが、その隣接する環状部分は均等的に開く、すなわち複製した染色体間で開くというのが二面説(サックス)である。これに対し、4本の染色体と4個の動原体の分かれ方は自由で、確率的に還元と均等は1対2になるというのが新二面説(松浦一(はじめ))である。新二面説は、遺伝学的な交差に対応するデータが少ないが、一面説は、細胞学的および遺伝学的に支持するデータが多い。同一染色体上にある遺伝子は、分離の際に互いに連なって行動するはずであるが(これを連関という)、しばしば連関しないで行動することがある。これは、相同染色体間でキアズマをつくり、その部分で交換がおこるためである。
[吉田俊秀]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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