「交差」は「交叉」の書き換え。
細胞分裂において相同染色体間で切断と再結合がおこり、相対応する部分が相互に交換する細胞学的な現象。乗り換えともよばれる。真正核をもつ高等な動物や植物のほか、細菌やウイルスのような下等な生物においてもみられる。また、この現象は減数分裂でおこるが、まれに体細胞分裂においてもみられる。減数分裂のときに交差がおこると、キアズマが形成される。相同染色体間で1回だけ交差のおこることを単一交差、2回の場合を二重交差、およびそれ以上の場合を多重交差とよぶ。ある2遺伝子間でおこる交差の頻度は、その距離と高い相関があるので交差価(率)の計算から2遺伝子間の相対的な距離を求めることができる。このような交差価に基づいて染色体上の各遺伝子の位置関係を図で表したものを染色体地図または遺伝子地図という。
交差価の算出には直接法と間接法がある。動物では前者の方法を用いることが多い。これはたとえば、AaBb遺伝子をもつ雑種第一代( A)を、潜性遺伝子をホモにもつ親(aabb)に戻し交雑し、次代に表れる分離比から交差価を求める方法である。AaBb間に交差がおこると、AB、Ab、aBおよびab遺伝子をもつ4種の生殖細胞が生じ( B・C)、それが潜性ホモaabb(つねにab遺伝子のみをもつ生殖細胞を生ずる)と交配すると、次代には(AaBb)、(aabb)、(Aabb)および(aaBb)の4通りの遺伝子をもつ子孫が生まれる。それらをそれぞれα(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)およびδ(デルタ)の割合で出現したとすると、aとb遺伝子間の交差価は次式によって求める。
間接法は植物で用いられることが多く、F1どうし(AaBb×AaBb)をかけ合わせて、F2の分離比から交差価を求める方法である。aとb遺伝子間の交差価が求められれば、それを遺伝子間の距離の単位として表す。かりにaとb遺伝子間の交差価が5%であったとすると、それを5単位とし、またbとc遺伝子間の距離が15単位であったとすると、aとc遺伝子間の距離は20単位となる。交差価と組換え価はしばしば混同して用いられるが、この両者はかならずしも同義語ではない。
[吉田俊秀]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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