日本大百科全書(ニッポニカ) 「キリギリス」の意味・わかりやすい解説
キリギリス
きりぎりす / 螽蟖
long-horned grass-hoppers
katydids
昆虫綱直翅(ちょくし)目キリギリス科Tettigoniidaeの昆虫の総称、またはそのなかの1種。コオロギ類に近縁の昆虫群で、コオロギ類が主として地表面で生活し、背腹に扁平(へんぺい)な体形となったのに対し、キリギリス類は主として植物上で生活するように分化し、縦に平たい体形を獲得した。触角は長く、体色は、例外的に黒褐色のものもあるが、大多数は緑色か褐色をしており、また同一種内でも緑色型と褐色型の2型の出るものが多い。コオロギ類に比べて、はねや後肢がより発達している。雄は、はねに発音器を備え、左右のはねをこすり合わせて発音する。秋の鳴く虫として知られるものも含まれている。
[山崎柄根]
形態
体形、色彩は前述のとおりであるが、口はかむ型で、複眼はあまり大きくない。前翅はおおむね植物葉状で、広葉樹の葉に似せたものなどは擬態と考えられる。雄の発音器は、前翅の基部にある。また、耳(鼓膜)は前肢の脛節(けいせつ)基方にあり、これは雌雄ともにある。後肢は発達した跳躍肢で、跗節(ふせつ)は4節。雄の尾角は多様な形に変化する。雌の産卵管は剣状や鎌(かま)状などをしており、縦に幅広い形である。体の大きさは、7ミリメートルほどの小さいものから、はねの開張が20センチメートルを超すものまで、変異に富んでいる。
[山崎柄根]
生態
後述のキリギリスやササキリ類のように、主として日中活動するものもあるが、ウマオイやツユムシ類のように主として夜間活動性のものも多い。食性は植物食、動物食、雑食などさまざまである。はねはよく発達するが、ひらひらとした飛び方で敏捷(びんしょう)ではない。そのかわり、後肢による一跳びの距離は大きい。キリギリスのように縄張り(テリトリー)をつくるものもある。雄は通常よく鳴き、これによって雌を誘引する。産卵は、ツユムシ類のように葉中に産卵するものもあるが、多くのものは地中にばらばらに産み付ける。卵越冬が多いが、成虫で越冬するものもある。
[山崎柄根]
分類
キリギリス類は、世界で5000種以上、日本では60種以上が知られている。現在のところキリギリス科の1科にまとめられ、そのなかに12亜科を置くのが普通であるが、これらをそのまま科に昇格させる方式もある。日本にはこのうち次の7亜科を産する。
(1)ツユムシ亜科 繊細な体つきの中形の虫体で、跗節(ふせつ)第1節の両側に溝がなく、第3節は心臓形。産卵管は鎌状。植物上で生活する。ツユムシPhaneroptera falcata、クダマキモドキHolochlora japonicaなどが含まれる。
(2)ウマオイ亜科 前脛節に長い棘(とげ)を備え、雄の尾角は単純な形である。ウマオイHexacentrus japonicusが代表種である。
(3)ササキリ亜科 中形ないし小形で、細長の虫体。頭部は円錐(えんすい)状になるものが多く、しばしばその先端はとがっている。イネ科植物の間に多い。ササキリConocephalus melas、ホシササキリC. maculatus、クビキリギスEuconocephalus thunbergiなどが含まれる。
(4)キリギリス亜科 前胸の腹板に棘があり、前肢脛節の腹方にも棘がある。中形ないし大形のものを含む。キリギリスGampsocleis buergeri、ヤブキリTettigonia orientalis、ヒメギスMetrioptera engelhardtiなどが含まれる。
(5)クツワムシ亜科 大形種が多い。前肢脛節の鼓膜は露出している。クツワムシMecopoda nipponensisが代表種である。
(6)ヒメツユムシ亜科 小形種のみで、はねはしばしば退化する。雄の尾角は複雑に変化する。ヒメヤブキリモドキTettigoniopsis forcipicercusなどが含まれる。
(7)ヒラタツユムシ亜科 中形ないし大形種を含む。木の葉によく似た前翅をもつものがあり、熱帯、亜熱帯に分布する。クサキリモドキPhyllomimus sinicusなどが含まれる。
キリギリス亜科のキリギリスは、体長40ミリメートル内外のやや大きい昆虫で、本州から九州に普通に分布し、草原に多い。鳴く虫としてなじみ深い種である。体色は緑色、褐色型があるが、共通して前翅には輝くような緑色部があり、また1~2列の黒点列がある。後肢は長くて大きい。雄の尾角は棍棒(こんぼう)状で、内側に大きい1歯を備える。雌の産卵管は腹部とほぼ等長で、やや下方に湾曲する細い剣状。雄は日中、草むらでチョンギース、チョンギース、とやや間隔を置いて発音する。成虫は夏季に出現し、多くは夏の終わりまでに交尾、産卵をして一生を終わるが、秋まで成虫がみられることもある。卵越冬で、翌春5月ごろ孵化(ふか)する。肉食が強く、したがって飼育するときは、共食いを避けるために狭い籠(かご)の中では、1頭ずつ隔離して飼わなければならない。季節になると虫屋で売られ、家々の軒下につるされた虫籠からチョンギースと聞こえる風情は、夏の風物詩である。なお、北海道にはこの種はみられず、かわりに、はねの長いハネナガキリギリスG. ussuriensisがみられ、沖縄諸島には類似種オキナワキリギリスG. ryukyuensisがいる。これらは、いずれも鳴き声はよく似ている。
[山崎柄根]